最新記事

政治

「中国がアメリカ経済を救う」

謎に包まれた温家宝首相が本誌だけに語った金融危機、北朝鮮、チベット、そして天安門事件

2009年6月1日(月)15時12分

「政府は国民によって監視されなければならない」と語る温家宝 Andrew Parsons-Reuters

 先週、国連総会に出席するためニューヨークを訪れた中国の温家宝(ウエン・チアパオ)首相(66)に、欧米メディアとして初めて本誌国際版編集長のファリード・ザカリアが単独インタビューを行った。率直な人柄と幅広い経済の知識で知られる温は「真実を語る」と誓って会話を始めた。

――アメリカを襲っている金融危機についてどう考えるか。

 われわれは手を携えて、共にこの危機に立ち向かわねばならない。アメリカの金融や経済システムがうまくいかなくなれば、影響は中国やアジア、世界全体に及ぶ。

――中国経済の大幅な減速を予測する人は多い。それは現実になると思うか。

 中国経済はこの30年間で、年平均9.6%の成長を続けている。これは奇跡だ。03年から07年にかけては、消費者物価指数の上昇率を2%前後に抑えながら、2けたの経済成長を享受してきた。

 われわれのこれまでの関心事は、経済の過熱とインフレの防止にあった。だがサブプライム危機とそれに続く金融不安によって、状況は急激に変化した。外需は減少し、内需も短期間での成長には限度がある。われわれは景気減速の危機にさらされている。マクロ経済政策を見直さなければならない。

――アメリカが大規模な不況に陥っても中国は成長し続けることができるのか。

 アメリカで景気後退が起きれば、まちがいなく中国経済にも影響がある。米中の貿易額は今や年間3020億ドルに達している。アメリカの需要減退は、確実に中国の輸出に影響を与える。金融でも米中は密接にかかわっており、アメリカの金融で問題が起きれば、中国も資本の安全性について憂慮しなければならなくなる。

――中国は米国債の最大の保有者だ。これをアメリカへの攻撃に利用するとの懸念も
あるが。

 アメリカの実体経済は現在もしっかりした基盤をもっていると思う。解決に向け適切な努力がなされれば、経済を安定させることは可能だ。中国政府はアメリカの持続的な成長を願っている。それは中国にも利益をもたらすだろう。

 アメリカにある中国資金の安全性を考えはするが、アメリカは信用できる国だ。このような困難な時期に、中国はアメリカに手を差し伸べてきた。それは世界経済を安定させ、混乱を防ぐことにもなる。現在は協力こそがすべてだ。

――中国はなぜダルフールやイラン問題の政治的解決に積極的でないのか。

 中国は正義を支持する国だ。利益を前に、それを裏切ることはない。ダルフールについて言えば、中国は最も早い段階でダルフールに平和維持部隊を送った国の一つで、世界で最初に援助も行っている。われわれはまた、スーダンの指導者に平和的な解決策を探るよう訴える努力も続けてきた。

――イランの核兵器所持は世界を危険にさらすか。それを防ぐために世界は何をすべ
きか。

 イランには核の平和利用を進める権利があると思うが、それは国際原子力機関(IAEA)の保障措置の対象となるべきで、核兵器の開発には反対だ。

 われわれは軍事力の行使や脅迫ではなく、平和的な話し合いを願っている。相手を追い詰めると逆効果だ。目的は問題を解決することで、緊張を高めることではない。

 中国の努力が、北朝鮮の核問題を取り巻く状況を改善させたとは思わないだろうか? 問題解決には時間がかかるが、われわれの手法の正しさは北朝鮮で証明された。

――ダライ・ラマ14世は現在、中国のチベット支配を認めている。なぜ直接交渉に応
じないのか。

 ダライ・ラマは一般的な宗教的人物ではない。彼が作ったいわゆる亡命政府の目的は、チベットを中国から独立させることだ。(独立を求める)地域には、四川・雲南・青海・甘粛省が含まれ、中国全土の4分の1の広さにもなる。

 われわれは何十年もダライ・ラマがチベットを中国の一部と認め、独立運動をやめれば話し合いをもつと言い続けてきた。話し合いにいたるカギは誠実さだ。それは独立運動をやめることで示せる。

――中国の急激な経済成長の成功のカギは何か。

 78年に導入した改革開放政策だ。われわれには重要な考えがあった。それは社会主義が市場経済を実践できるというものだ。

――矛盾とも言われるそれらを、どのように両立させているのか。

 マクロコントロールと規制の下、資源の分配で市場の基本的役割を十分に発揮させる。アダム・スミスは『国富論』で市場原理について書いているが、彼は社会の平等と正義についても書いている。そこでは、富を分配する政府の調整能力の重要性が強調されている。富の多くが一部に集中すれば、国家の調和と安定性が脅かされる。

――中国はここ数年、人権を弾圧していると主張する人もいる。

 オリンピックの開催で中国はさらに開かれた国になった。言論や報道の自由も保障されており、中国政府は人権を重視し、保護している。特定の場所や地域で問題があることは事実だが、それでもわれわれは改善を続けている。

――89年の天安門事件の経験から、どのような教訓を得たか。25年以内に、政権をか
けた国政選挙は実現すると思うか。

 経済改革を進めるなかで、政治改革を進める必要もある。中国の民主主義の発展では、三つの分野について話すことができる。

 第一に権力が国民の下に属し、国家権力が人々に仕えるため、段階的に民主的な選挙システムを発展させる必要がある。第二に法に従った国の統治を行うため、司法制度の整備が必要だ。第三に政府は国民によって監視されなければならない。そのためには政府の透明度が高められなければならないし、メディアや他団体からの監視も受ける必要がある。

 25年先の予測はむずかしいが、中国の民主化は進むということは言える。今後20年から30年で中国社会はさらに民主的で公平になり、法制度が発達するだろう。社会主義も熟成され、発展していく。

――民主主義でありながら、一つの党が政権を握り続ける日本のシステムを学んでい
ると聞いた。日本が中国のモデルなのか。

 世界にはさまざまな形の民主主義がある。重要なのはそれが本当に人々の利益を代表しているかどうか。私は、社会主義は民主主義のシステムだと考えている。民主主義は民主的な選挙をする権利と(政府の)監視、そして意思決定の実現に奉仕しなければならない。自由と平等を求める人々を助けることも必要だ。

――あなたは(哲学者でもあったローマ皇帝の)マルクス・アウレリウスの本を何度も読んだと発言している。彼は人はもっと共同体に尽くすべきと説いている。個人主義的で消費者主義的な中国の人々に、自分のことより社会を考えるよう伝えようとはしないのか。

 確かに彼の言葉に感銘を受けた。私はモラルを重視している。起業家や経済学者、政治家も、モラルや道徳にもっと高い関心を払うべきだと思う。中国の経済発展の過程で、いくつかの企業がモラルを犠牲にして利益を追求してきたことは確かだ。今後、このようなことを許しはしないだろう。

――最後の質問として、アメリカの大統領選を見てどう思うか。

 アメリカ大統領選はアメリカ国民によって決められるべきだ。私が注目しているのは、選挙後の米中関係がどうなるか。誰が大統領に選ばれようと、対中関係の発展を続けるよう望む。中国では誰が権力の座に就こうと、対米関係の進展を願っている。

[2008年10月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キリンHD、発行済み株の6.2%・800億円上限に

ワールド

中道改革連合、新代表に小川氏 国民会議参加は「慎重

ビジネス

トランプ氏、鉄鋼・アルミ関税の一部引き下げを計画=

ワールド

米超党派議員団、台湾議会に防衛予算案承認求める書簡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 7
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 8
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中