最新記事

アジア

議事堂は殺人犯がいっぱい

2009年4月7日(火)16時08分
ジェーソン・オーバードーフ(ニューデリー支局)

米印原子力協定も「汚染」

 前々回以前の選挙の立候補者に関する資料はないが、状況はしだいに悪化してきているとほとんどの専門家はみている。「犯罪者の政治への影響力は強まる一方だというのがおおかたの見方」だと、インドの市民団体の連合体である全国社会監視連盟のヒマンシュ・ジャーは言う。

 インドの法律では、裁判で有罪判決を受けた人物は選挙に立候補できないことになっているが、上訴審の審理が続いている間は立候補の資格が停止されない。この国では上訴審が結審するまでに25〜30年かかるので、政界を引退するまで時間かせぎができてしまう。

 弊害は多方面にわたっている。選挙で当選した犯罪者は地位を利用して私腹を肥やし、刑事訴追を回避し、私的な目的のために政府や警察に不当な圧力をかける。犯罪を立件されそうになると、有力議員であれば、政治的影響力を及ぼして警察職員や判事を異動させてしまえる場合もある。

 アメリカとの原子力協力協定のように、国の未来を左右する重要問題にまで、有力政治家の「犯罪行為」が影響を及ぼしたという見方が広がっている。

 08年7月、マンモハン・シン首相と最大与党の国民会議派が原子力協定を推進したことに反発して、政権に閣外協力していた左派政党が連立を離脱。少数与党に転落したシン政権は、議会で信任投票にかけられることになった。

 懸命の多数派工作の結果、野党の社会党が原子力協定支持に転じ、与党支持に回った。これでシン政権は信任投票を乗り切り、原子力協定も議会の支持を受けた形になった。

 社会党のムラヤム・シン・ヤダブ党首は汚職容疑で刑事捜査を受けていたが、この信任投票の後、捜査は打ち切り。議員たちの自宅に現金の詰まったスーツケースが届いたという噂も流れた。結局、この買収スキャンダルはすぐにうやむやになり、捜査が開始されることすらなかった。

 犯罪に「汚染」されているのは地域政党や小政党だけではない。2月26日に閉会した下院では、2大政党である国民会議派とBJPの議員の約5人に1人が刑事犯罪の捜査対象になっていた。刑事責任を問われていた現職議員も国民会議派に26人、BJPに29人いた。

 2大政党は、重大な犯罪の容疑で刑事責任を問われている政治家にも閣僚ポストを与えてきた。たとえば国民会議派は、元私設秘書を誘拐・殺害した容疑と宗派対立に関連して11人を殺害した容疑で裁判中だったシブ・ソレンを、石炭相に任命した(その後、ソレンは有罪判決を受けて辞職。しかし上訴審で無罪判決が下った)。

 「(政党による選挙の候補者選定の)基準は『当選可能性』に終始し、人格や業績、実務能力や分析能力がないがしろにされている」と、元ジャーナリストで現在はBJP所属議員のアルン・シューリは言う。「その結果、人々が自分の会社に雇いたくないと思うような――というより、かかわり合いになりたくないと思うような――人物が議員になってしまう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中