最新記事

中東

イラク政治にもチェンジの風

2009年4月7日(火)16時02分
レノックス・サミュエルズ(バグダッド支局)

クルド人問題は先送り

 圧勝した陣営がいない(法治国家連合の最大得票率はバグダッドでの38%)という事実は、地方議会に単独与党が生まれないことを意味するだろうと、監視団体「バグダッド安全計画」の広報担当タハシーン・シークリーはみる。「権力が均衡するはずだ」

 その均衡をイラクがどのように手なずけるかは、今後数カ月の試練となる。法治国家連合は大勝利を収めたが、サドル派とイスラム原理主義勢力も十分に健闘した。

 バグダッドではサドル派の候補が2位(ただし得票率は9%)。バスラ州は37%のマリキ派に続いて、シーア派最大の政治組織であるイラク・イスラム最高評議会(SIIC)の候補が11・6%で2位。SIICはナジャフ州でも2ポイント未満の差で2位。ディカル州とマイサン州はサドル派の候補が僅差の2位で、カディシヤ州とワシト州はSIICがマリキ派の候補に数ポイントまで迫った。

 サドル派との連携について、アッダワ党のセナイドは次のように語る。「今後は法治国家を信じ、憲法の施行を信じ、市民が自分たちの権利を行使する権利を信じる相手と連携していく。それを信じる人は誰でも盟友だ」。マリキの法治国家連合とサドル派が少しでも似たような考え方をすると思う人は、まずいない。

 火ダネはほかにもある。ニナワ州ではスンニ派を中心とするハドバ派が得票率48・4%で圧勝した(2位は25・5%)。この地域の国粋主義勢力はクルド人勢力の影響を弱めたいと考えており、次の総選挙では双方が衝突しかねない。

 実際、クルド人の問題は先送りされてきた。今回選挙が行われなかったのは4州。そのうち3州はクルド人自治区で、もう一つはキルクークの帰属をめぐってイラクの中央政府とクルド自治政府が激しい論争を繰り広げている。

 この地方選で、09年末〜10年の初春に行われる見込みの総選挙に向けて政局が動きはじめた。マリキ派にとっては、地方で勝った戦略を国政で利用してマリキの続投を確保できるかどうかが問題だ。イラクにとっては、無数の政党と利益団体が報復合戦と混乱に逆戻りすることなく、新しい民主政治を築けるかどうかが問題だ。

[2009年2月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中