イラク政治にもチェンジの風
クルド人問題は先送り
圧勝した陣営がいない(法治国家連合の最大得票率はバグダッドでの38%)という事実は、地方議会に単独与党が生まれないことを意味するだろうと、監視団体「バグダッド安全計画」の広報担当タハシーン・シークリーはみる。「権力が均衡するはずだ」
その均衡をイラクがどのように手なずけるかは、今後数カ月の試練となる。法治国家連合は大勝利を収めたが、サドル派とイスラム原理主義勢力も十分に健闘した。
バグダッドではサドル派の候補が2位(ただし得票率は9%)。バスラ州は37%のマリキ派に続いて、シーア派最大の政治組織であるイラク・イスラム最高評議会(SIIC)の候補が11・6%で2位。SIICはナジャフ州でも2ポイント未満の差で2位。ディカル州とマイサン州はサドル派の候補が僅差の2位で、カディシヤ州とワシト州はSIICがマリキ派の候補に数ポイントまで迫った。
サドル派との連携について、アッダワ党のセナイドは次のように語る。「今後は法治国家を信じ、憲法の施行を信じ、市民が自分たちの権利を行使する権利を信じる相手と連携していく。それを信じる人は誰でも盟友だ」。マリキの法治国家連合とサドル派が少しでも似たような考え方をすると思う人は、まずいない。
火ダネはほかにもある。ニナワ州ではスンニ派を中心とするハドバ派が得票率48・4%で圧勝した(2位は25・5%)。この地域の国粋主義勢力はクルド人勢力の影響を弱めたいと考えており、次の総選挙では双方が衝突しかねない。
実際、クルド人の問題は先送りされてきた。今回選挙が行われなかったのは4州。そのうち3州はクルド人自治区で、もう一つはキルクークの帰属をめぐってイラクの中央政府とクルド自治政府が激しい論争を繰り広げている。
この地方選で、09年末〜10年の初春に行われる見込みの総選挙に向けて政局が動きはじめた。マリキ派にとっては、地方で勝った戦略を国政で利用してマリキの続投を確保できるかどうかが問題だ。イラクにとっては、無数の政党と利益団体が報復合戦と混乱に逆戻りすることなく、新しい民主政治を築けるかどうかが問題だ。
[2009年2月18日号掲載]