最新記事

フェイクニュース

ヘレン・ケラーの存在まで疑うネット上の陰謀論

Too Saintly to Be “Real”

2021年4月2日(金)14時30分
レベッカ・オニオン
ヘレン・ケラー

「奇跡の少女」と語り継がれるケラーは成人後の多くの時間を社会・政治活動に費やした Daily Herald/Mirrorpix-GETTY IMAGES-SLATE

<ネット上の陰謀論をきっかけに見直したい、社会・政治活動に人生を捧げた「奇跡の人」の真の姿>

ヘレン・ケラーの「三重苦」は嘘だったという偽情報を、ネットで目にしたのはいつ? 英語圏の中高年以上なら、たぶん今年2月の終わり頃。あるツイッターのユーザーが自分の投稿に、中学校の先生が動画アプリTikTok(ティックトック)で公開した動画を貼り付けた後だろう。

その動画では、ある生徒が言っている。「ヘレン・ケラーはナチスの人間だ......テロリストだ。目が見えず耳も聞こえなかったというのは大嘘、そんな女はいなかった。でも、みんながそう信じている」

「今どきの子は歴史を知らない」と、大人が嘆くのは今に始まったことじゃない。そう思う大人が多いからこそ、この先生の投稿が一定の注目を浴びたといえる。

でも、ヘレン・ケラーを否定するのは次元が違う。それは「歴史を知らない」ことの一例ではない。露骨な歴史の捏造だ。

専門家によれば、この手の偽情報が出現したのは昨年の5月頃。誰かがTikTokで、「ヘレン・ケラーは嘘だった」というハッシュタグを付けた動画を公開した。今年1月になって、ダニエル・クンカという脚本家がツイッターで、自分の甥と姪がヘレン・ケラーは「実在しなかった」というメールを送ってきたと投稿した。このときはこのハッシュタグは使われていないが、どうやらこれが拡散の火種となったらしい。

いまTikTokでこのハッシュタグをたどると、出てくるのはジョーク動画(出会った庭師にうっかり声を掛けて、実は目が見えることがばれた、など)か、そうでなければ彼女を敵視し、否定する悪質な偽情報だ。

後者の投稿に対するコメント欄の書き込みは、当然のことながら荒れている。「身障者差別だ」と批判するコメントには「黙れ、じじい」という反撃があり、ヘレン・ケラーなんて嘘だと言ったら先生に叱られたという書き込みもある。

「有名な人は疑われ、真に有名な人は信じてもらえない」。2003年にそう書いたのは作家のシンシア・オジック。中傷に耐えて生きたヘレン・ケラーを擁護する論考だった。しかし18年前のオジックは1つだけ間違っていた。彼女は書いていた。「もう今はきちんとした障害者保護の法律ができているから、こんな中傷が出てくるはずはない」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中