最新記事

米警察

黒人射殺事件で見えた警察の軍隊化

米軍で余った重火器を手に入れて凶暴になった「勘違い警察官」が過剰捜査で悲劇を招く

2014年8月21日(木)15時18分
ジャメル・ブイエ

どこの軍隊? 黒人青年射殺に抗議するデモ隊と対峙する機動隊 Mario Anzuoni-Reuters

 今月上旬、ミズーリ州ファーガソンで警察官が丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン(18)を口論の末に射殺した。そこから全世界に配信された写真で最も印象的なのは、射殺に対する抗議デモでも暴動でもなく、市民と対峙した警官隊の姿だ。

 防弾チョッキにヘルメット、迷彩服に身を包み、拳銃やショットガン、自動小銃などで武装している。デモ隊に警棒を振り回し、ライフル銃を突き付ける。完全武装の機動隊が最新鋭の軍用装甲車を背に立ちはだかり、デモ隊や報道陣に催涙ガスを放っている様子も写真に捉えられている。
 ファーガソンは戦場ではないし、アメリカで警察が軍用装甲車を必要とする場面は想像し難い。1件の略奪騒ぎを除けば、警察は何の危険にも直面していない。なのに市民を保護対象としてではなく、占領民のように扱っている。

家宅捜索でSWAT突入

 ジャーナリストのラドレー・バルコは著書『武装警察の台頭』で60年代以降の警察の変化を次のように述べている。「警官と軍人の境界が曖昧になってきた。『非常事態』という口実と装備の供給に促され、警察官は兵士のようなものの見方をするようになった」

 この流れは80〜90年代の「麻薬戦争」で強まった。連邦政府は州・市警察に軍用の武器を供与し、麻薬密売などの犯罪摘発に当たらせた。9・11テロとイラク・アフガン戦争の後には連邦政府は軍備を持て余し、州や地方政府に払い下げた。

 ニューヨーク・タイムズによれば、06年以降、全米の警察は装甲車435台、飛行機533機、機関銃9万3763丁、最新鋭の軍用装甲車を432台も購入した。連邦議会が軍備品供与のシステムを確立して以来、警察は総額43億ドルの装備品を購入。警察が買った軍備の総額は90年の100万ドルからシステム導入直後の95年には3億2400万ドル、昨年には4億5000万ドル近くに上った。

 犯罪率が近年で最低水準に下がるなか、警察は大量の武器を獲得し、何かにつけてSWAT(特殊部隊)投入などの手荒な手法を採用している。米自由人権協会(ACLU)によれば、11〜12年のSWAT出動の79%が家宅捜索だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向

ビジネス

再送MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中