最新記事

新刊

ヒラリーの見えない本音

2014年8月4日(月)12時09分
ジョン・ディッカーソン

無難な指導者ではあるが

 困難な選択で失敗したとき、その経験から何を学んだのかは記していない。02年にイラク戦争に賛成したこと、12年にリビアのベンガジで起きた米領事館襲撃事件で死者を出したこと、11〜12年のイラン民主化運動をもっと支援しなかったことへの後悔は述べているが、反省点を深く分析した記述はない。

「友人が教えてくれないような教訓を、批判者が教えてくれることもある。批判されたときは......学ぶべきことがないかと考えるようにしている」とは書いているものの、それを実践した例は記されていない。

 16年の大統領選が近づき、クリントンの再出馬が取り沙汰されるなか、12年のベンガジ事件が再び注目を集めている。当時、この事件に関して米政府が判断ミスの隠蔽を行い、それに彼女も関わっていたという疑惑が指摘されているのだ。

 クリントンは2章をリビア情勢に割き、欧米連合国の結束を維持することがいかに難しかったかを書いている。その半面、ベンガジ事件については、事の経緯を記し、これまでの弁明を繰り返しているにすぎない。

 この本は、勤勉できちょうめんな公僕というヒラリー・クリントン像を提示している。複雑な世界に対して不安を抱く有権者にとって、彼女は無難な指導者といえるだろう。

 しかし、大統領選の行方を左右する主な要因は経済だ。クリントンは本の最後で、現在のアメリカが直面する経済的課題を挙げている。学生ローン問題、労働市場の不振、中流層の苦境などだ。本人が望めば、大統領選の候補者としてこれらの問題を論じる機会が訪れる。

「16年に、私は大統領選に名乗りを上げるのか?」と、クリントンは書いている。「まだ決めていない──それが答えだ」

 実際のところ、当たり障りのない内容の長大な回顧録をこの時期に出版したことからすれば、立候補するつもりなのだろう。もし出馬を見送るなら、後でエピローグを書き加えて本音を聞かせてほしい気もする。

© 2014, Slate

[2014年6月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ルネサス、1─3月期営業利益率改善を予想 25年1

ビジネス

クックFRB理事、政策金利「ごくわずかに」制約的 

ワールド

マドゥロ氏側近のサーブ氏、ベネズエラ国内で拘束=米

ビジネス

アルファベット、今年は設備投資倍増へ クラウド事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中