最新記事

新刊

ヒラリーの見えない本音

回顧録『困難な選択』に危ない話が出てこないのは16年の大統領選出馬を意識しているからか

2014年8月4日(月)12時09分
ジョン・ディッカーソン

16年への選択 回顧録は、勤勉できちょうめんな人物像を描こうとしている Patrick Smith/Getty Images

 08年の米大統領選の民主党予備選で、ヒラリー・クリントンはバラク・オバマの外交上の危機管理能力を疑問視する露骨なTV広告をやった。電話が鳴り、ベッドですやすや眠る子供たちの映像が次々に出てくる。

「午前3時。子供たちは安らかに眠っています。あなたは誰にこの電話に出てほしいですか?」とナレーションが流れ、受話器を持つクリントンの姿が映し出される。当時は彼女もまだオバマと同じく、「赤電話」と呼ばれるロシア大統領からのホットラインに応えた経験はなかったのだから、この広告はちょっとずるかった。

 今の彼女なら、外交経験を積んでいる。先週出版されたばかりの回顧録『困難な選択(Hard Choices)』では、変化する世界でアメリカの外交を担う国務長官としての経験を600ページ以上にわたって詳述している。

 国務長官の緊急電話は実際は黄色だし、現実の外交は選挙広告のようにスリルに満ちたものではなく、我慢強く協力関係を築いていく作業だということも分かる(南シナ海での中国の領海侵犯に対して、各国の足並みをそろえる苦労がいい例だ)。

 それでも本の内容はあくまでも無難。ヒラリーが大統領選にいつ出馬しても、足を引っ張る心配のないことばかりだ。 

 彼女が世界を駆けずり回って苦労の多い仕事をこなしたことは伝わってくる。「些細なことがすぐ気に障る人だ」と書かれたロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、いつか彼女と首脳会談に臨むことがあればご機嫌斜めかもしれない。

 だが、失うもののない人間が遠慮なく書いた本とは違う。

 ロバート・ゲーツ元国防長官の回顧録『任務(Duty)』には、オバマ大統領に対する厳しい評価も出てくる。クリントンの本にはゴシップもないし(驚くことではないが)、安全保障政策の決断がどうなされたのかも明らかにされていない。

 うまく機能している外交政策チームにも対立はあるはずだし、ゲーツの本ではそれを率直に記したのがいいスパイスになっていた。一方、クリントンの回想録は塩分控えめ、カロリー控えめで、デザートはバニラ味のプディングという感じだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月利下げは不要、今週の利下げも不要だった=米ダ

ビジネス

利下げでFRB信認揺らぐ恐れ、インフレリスク残存=

ワールド

イスラエル軍がガザで攻撃継続、3人死亡 停戦の脆弱

ビジネス

アマゾン株12%高、クラウド部門好調 AI競争で存
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中