最新記事

米大統領選

共和党の副大統領候補ライアンの嘘八百

共和党のロムニー&ライアン候補は聖書をすべての基本とし、真実を否定するが、有権者に理性の声は届かない

2012年8月31日(金)15時52分
エリオット・スピッツァー(前ニューヨーク州知事)

ロムニーとお似合い 42歳の若さで副大統領候補になったライアンは保守派の論客だが Eric Thayer-Reuters

 11月の米大統領選に向けた共和党全国大会で8月29日、副大統領候補に指名されたポール・ライアン下院予算委員長。思慮深い人なら彼の指名受諾演説を聞いて、こんな感覚に陥ったのではないか――自分はビンの中に閉じ込められていて、人々に警告しようと大声で叫んでも誰にも聞こえない。

 ライアンのつく大ウソは、国民の共感を呼んでいる。人々がきちんと真実を聞き入れられれば、ライアンとミット・ロムニー大統領候補の共和党ペアを選んだりはしない、と私たちは言い続けてきた。でも実際は、そう単純にはいかない。

 ライアンは、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻をオバマ大統領のせいにするが、実際はブッシュ前政権時代に既にほとんどの工場が閉鎖され、大量の失業者が出ていた。また、メディケア(高齢者医療保険)の予算カットを批判しているが、これもライアン自身が下院予算委員長としてまとめた予算だ。こうしたあらゆる問題をめぐる彼の歪曲ぶりは誰が見ても明らかで、めちゃくちゃだ。

 しかし私たちはもう気付いているはずだ。人間というものは、自分が持っている世界観の中でしか事実を認識できないのだ、と。

「真実」は無視し、相手を攻撃し続ける戦略

 だから、ライアンとロムニーの作り話を信じている有権者の多くに、「その話は間違っている」と説得できる可能性は非常に低い。有権者はオバマ支持とロムニー支持に二分されており、誰に投票するか決めていない浮動層はほとんどないと言っていいくらいだ。

 今回の大統領選は論理ではなく、感情で勝者が決まるだろう。選挙の行方は投票率しだいだ。だからライアンとロムニーは、毛ほどの迷いもみせず、声を張り上げ、徹底的に相手を攻撃する戦略を取っている。本人たちも認めているように、「真実」は彼らの選挙戦を勝利に導く力にはならない。

 ライアンは、アメリカ国債の格付けが下がりそうだと嘆く。ただしそれは彼ら共和党が、連邦政府の債務上限の引き上げに反対を続けているせいだ。保守派市民運動ティーパーティーの高齢者たちが、オバマケア(公的医療保険)には不当な政府介入として猛反対しながら、高齢者向けの公的医療制度については「私のメディケアに手を出すな!」と金切り声をあげるのと同じだ。しかしこの偽善ぶりはこの先変わらないだろう。私たちも、変わると期待するのはやめるべきだ。

 私たちはどちらを選択するのか。聖書をすべての基本とし、科学や理性、論理、真実を否定する共和党のロムニー&ライアン候補か。実りのない交渉に力を入れ過ぎるきらいはあるが、少なくとも今は真っ当に戦っているオバマ大統領か。

 変えられないものを変えようとする、その努力を私たちはやめられないだろう。とにかく自分と同じ考えの人々に、選挙のことを真剣に考え、投票に行ってもらう――そう働きかけるしかない。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

地盤ネットHD、井村氏が代表の会社と投資機能活用な

ビジネス

高市首相と植田日銀総裁、金融経済情勢に関する一般的

ワールド

インド卸売物価、1月は前年比+1.81% 10カ月

ビジネス

日経平均は3日続落、決算一巡で手掛かり難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中