最新記事

軍事

米新国防戦略で地上部隊に「冬の時代」

中国を意識してアジア重視を強く打ち出す一方で陸軍と海兵隊に大ナタが振るわれるのは確実

2012年2月9日(木)12時40分
フレッド・カプラン

戦略シフト 海兵隊の兵力が大幅に削減されることは避けられない(沖縄の普天間基地で任務に就く隊員たち) Reuters

 アメリカの軍隊の在り方が大きく変わるかもしれない──オバマ大統領が先週発表した新国防戦略は、そんな予感をにおわせるものだった。

 大統領自身、この点をひときわ印象付けたかったようだ。オバマは、ホワイトハウスではなく、国防総省の記者会見室に足を運んで会見を開いた。歴代大統領に前例のない行動だ。

 もっとも、具体的に何をどの程度変更するのかは明らかにされていない。オバマに続いて会見した国防総省高官たちも、詳細には言及しなかった。

 とはいえ、推測できることもいくつかある。最も注目すべき点は、陸軍と海兵隊が深刻な危機に直面することだ。組織の存亡に関わる事態と言っても過言でないかもしれない。

「イラクとアフガニスタンでの戦争が終わり、大量の兵力を長期派遣して国家建設に携わる作業が終了すれば、もっと小規模な通常型地上部隊で国の安全を確保できるようになる」と、オバマは会見で述べた。

 大統領の言葉を聞くと、2つの大きな問いが浮かび上がる。第1の問いは、陸軍がこの5年ほどの間に整えてきた対反政府武装勢力戦略(COIN)やその一環としての兵士の教育と訓練がことごとく放棄されてしまうのかという点だ。

 アシュトン・カーター国防副長官は会見でその可能性を否定した。将来再び必要になる日のために、「ノウハウ」と「重要なスキル」を維持するという。

 しかし、口で言うほど簡単ではない。軍首脳の多くはもともと、地上部隊を長期駐留させて、反政府武装勢力と戦わせることに消極的だった。大統領がそれを陸軍と海兵隊の中核任務でないと明言すれば、「ノウハウ」を維持するための訓練基地の運営や教育カリキュラムの実施などを打ち切る可能性が高い。

 第2の問いは、今後の地上部隊の中核任務は何になるのか、という点だ。パネッタ国防長官は、陸軍と海兵隊の兵員数を大幅に削減する方針を示している。報道によれば、陸軍の現役兵士の数は57万人から49万人まで減らされるという。

 しかし陸軍は、イラク戦争終了後に52万人まで削減することを既に受け入れていた。3万人の追加削減は、大きな数字とは言えない。陸軍幹部の多くが頭を悩ませているのは、49万人もの兵力を抱えることをどうやって正当化するのかという点だ。

 朝鮮半島の有事に備えるのも1つの選択肢ではある。しかしアメリカの陸軍は世界で最も訓練が行き届いていて、最も高度な装備を擁する軍隊だ。まだ戦争が起きてもいない「38度線」の警備に、本当に兵力の多くを投入したいだろうか。

 記者会見でパネッタとカーターは、「安全保障支援」を継続する必要性に触れた。同盟国の軍隊に物資を供給したり、訓練を施したりする活動のことだ。これが陸軍の新たな中核任務の1つになるかもしれない。

 数年前、この種の活動を専門的に担う「顧問師団」を陸軍内に創設すべきだと提案されたとき、陸軍幹部は強硬に反対した。ただでさえ規模が縮小されている兵力の一部から「実戦能力」を奪うことなど、もってのほかだと考えたのだ。

 しかしこの先、アメリカがイラクやアフガニスタンのような戦争より、リビアやウガンダやソマリアのような戦争を行うケースが増えれば、「顧問師団」の出番はあるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中