最新記事

軍事

米新国防戦略で地上部隊に「冬の時代」

2012年2月9日(木)12時40分
フレッド・カプラン

軍の巻き返しが始まる?

 陸軍幹部が不安を抱いている点は、もう1つあるだろう。新国防戦略では、空軍と海軍の増強を優先させる方針が明確に示されているのだ。

 記者会見でパネッタはこう述べた。「米軍はアジア・太平洋地域に重点を置く体制を整え、プレゼンスの強化、戦力展開能力、抑止を重んじる。アジア・太平洋地域は、アメリカの経済と安全保障の未来にとって一層重要性を増している。今後は例えば、米軍のテクノロジー面での優位と行動の自由を維持するための能力を改善していく」

 要するに、存在感ある空母などの艦船と、長距離飛行能力のある航空機を増やす、という意味だと解釈できる。地上部隊の増強を連想させる要素は含まれていない。そもそも中国と戦争になったとしても、地上部隊に出番はないだろう。

 最近は、アジア・太平洋地域への米軍の「戦略的シフト」がよく話題に上る。特に、南シナ海などでの中国の拡張主義的態度に対して、アジアの同盟国の間で懸念が高まっていることがその背景にある。報道によれば、オバマは空母の数の削減を見送ったという。

 新国防戦略が打ち出された最大の理由は、財政危機だ。国防予算については5年で2630億ドル、10年で4870億ドル減らすことが決まっている。これは、イラク戦争の終了とアフガニスタン戦争の縮小に伴う数千億ドルの支出減を含まない数字だ。

 では、どうやってこの数字を達成するのか。兵員数の削減だけでは十分でない。国防予算の「あらゆる項目で大幅な変更」を行うとカーターは述べたが、詳細は明らかにしていない。

 それでも、ヒントはいくつかある。「時代遅れの冷戦型の兵器をなくし、未来のために必要な能力への投資を行う」と、オバマは会見で述べている。

「時代遅れの冷戦型の兵器」とは何か。核兵器がその中に含まれる可能性は十分ある。もっと少数の核兵器でも核抑止の目的を果たせるという事実は予算に反映されると、ミシェル・フロノイ国防次官(政策担当)は記者会見で述べた。しかし、どの程度削減するのかはやはり明らかにしなかった。

 ゲーツ前国防長官は、F22ステルス戦闘機の生産を中止し、巨額の支出削減を達成した。パネッタがF35ステルス戦闘機配備計画を打ち切れば、それよりもっと大幅に支出を減らせる可能性がある。飛行可能距離が短く、主に敵の戦闘機と空中戦を戦うために開発されたF35は、「時代遅れの冷戦型の兵器」そのものに思える。

 軍の大幅な兵力削減、思い切った再編、そして役割と使命の見直しは、一筋縄ではいかないだろう。陸海空軍や海兵隊の幹部が舞台裏で有力議員(たいてい、予算カットで打撃を被る軍事産業や基地が地元にある議員だ)と接触し、政府の決定を覆させようとする場合も多い。

 その点ゲーツは断固とした方針を示し、F22の生産打ち切りなどに抵抗した空軍参謀総長と空軍長官を更迭した。パネッタも同じくらいの──そしてそれ以上の──強い姿勢で臨まなければ、軍のリストラなど実現できない。

[2012年1月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中