最新記事

告発文書

ウィキリークスが暴くアメリカ陰謀説の嘘

アメリカが裏で糸を引いて中南米情勢を混乱させていると反米指導者たちは訴えるが、漏えい文書にその兆候はない

2010年12月6日(月)18時25分
マイク・ジリオ

震源地 ウィキリークスが漏えいした情報が中南米の勢力図を書き換えるかもしれない Toru Hanai-Reuters

 11月末に内部告発サイト「ウィキリークス」が大量に暴露した米国務省の公電には、アメリカ外交の機密が多数詰まっていた。ところが、ラテンアメリカ関連の情報はほとんどなかった。物足りなさを感じたのか、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領はヒラリー・クリントン米国務長官の辞任を求める発言などをして騒動に乱入した。

 漏えいされた文書の中で、クリントンはアルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領の精神状態について問い合わせ、一方ではチャベスを「クレイジー」と表現していた。こんなことが明るみに出れば、多くの人々の怒りを掻き立て、アメリカの支配に苦しめられてきた中南米にさらなる緊張が走るのは必至、と思われた。

 しかし、現実は違うようだ。チャベスやボリビアのエボ・モラレス大統領、エクアドルのラファエル・コレア大統領といった反米の左派指導者は、アメリカが裏で糸を引いて中南米諸国を混乱させているという「陰謀説」を唱え、それを政治力の源にしている。だが、ウィキリークス上に流出した文書によって、こうした陰謀説の信憑性は一気に揺らぐかもしれない。

極秘作戦の存在を示す文書は皆無

「アメリカが我々の知らない極秘の作戦を進めていたことを示す資料は何もなかった」と、ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの中南米担当ディレクター、アンドリュー・セリーは言う。

 国際政策センターで中南米問題を研究するアダム・イサクソンも、「アメリカは(中南米諸国の)クーデターを支援したり、各国政権の転覆を画策していると常に批判されてきた。だが、その証拠は見当たらない。チャベスやモラレスが訴えている陰謀説を裏付けるものはない」

 チャベスを中心とする反米指導者らは、エクアドルでの10月のクーデター未遂からコロンビアでの米軍の基地使用協定、05年のボリビア大統領選でのモラレス勝利後のアメリカの介入まで、さまざまな問題について繰り返し陰謀説を唱えてきた。つい先日も、ロバート・ゲーツ米国防長官が出席した会合でモラレスが、昨年夏のホンジュラスでのクーデターにアメリカが関与したと訴えたばかりだ。

 だが今回流出した文書をみるかぎり、それは事実ではない。ホンジュラスの首都テグシガルパのアメリカ大使館がクーデターの1カ月後に本国に送った公電には、クーデターが「違法で憲法違反」なのは「間違いない」とあり、新大統領には「まったく正統性がない」と断言している。

 これから公開される文書もアメリカの公式見解を裏付けるはずだと、国務省のある高官は本誌に語った。「(チャベスらの)発言と同じタイミングで文書が公開されれば、人々が自然に結論を導き出すだろう」と、この高官は言う。「どの時期のどの大使館からの公電をサンプルとして検証しても、明らかになるのはアメリカの外交政策が現場の大使館員の報告と一致していることだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中