最新記事

対テロ戦争

ビンラディンの「楽勝」逃亡生活

世界一のお尋ね者がパキスタンの郊外で快適に暮らしているという情報が示唆する捕獲の絶望度

2010年10月20日(水)17時08分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

夢のまた夢 『ビンラディンを殺せ』というタイトルの本を読む米軍士官学校生(2009年12月1日) Shannon Stapleton-Reuters

 10月18日、ウサマ・ビンラディンがパキスタン北西部に潜伏しているという情報が、北大西洋条約機構(NATO)の高官によって明らかにされた。このニュースの衝撃度はほぼゼロ。それでも、世界一有名なお尋ね者の居場所をめぐる噂が再浮上したことで、実際にビンラディンが発見されたらどれほどの大騒ぎになるか、あらためて思い知らされた。

 国際テロ組織アルカイダを率いるビンラディンが今も生存しているという事実によって、バラク・オバマ大統領はある意味で、今の逆境から抜け出す世界最強のカードを手にしたことになる。今後2年間のうちにビンラディンを拘束または殺害すれば、オバマは順調に再選を果たすことができるだろう。

 単純すぎる? 確かにそうかもしれない。だがビンラディンをめぐる物語の最終章をつづることの精神的インパクトは計り知れない。メディアはその話題でもちきりになるから、オバマにとってこれ以上の政治的チャンスはまずない。

ナンバー2のザワヒリも一緒に

 もちろん、ビンラディンを簡単に発見できるのなら、この10年のうちにとっくに捕まえているはずだ。実際、米政府は同時多発テロのずっと前、なんとクリントン政権時代からビンラディンを排除しようと試みてきた。

 NBA選手のように長身で、おそらく医療行為が必要なほど体調が悪く、地球上で最も有名になった指名手配犯が、サダム・フセインの地下壕潜伏がひどく素人っぽくみえるほど完璧な逃亡生活を続けているのは見事としか言いようがない。さらに驚きなのは、容赦なしの攻撃合戦を繰り広げてきた米民主党と共和党のどちらの陣営も、ビンラディンを捕まえられない相手を糾弾しないことだ。やぶへびになるのが怖くいのだろう。

 ビンラディンの居場所に関する先日の情報は、匿名のNATO高官がCNNに語ったものだ。それによると、ビンラディンはパキスタン北西部の村の民家に滞在しており、アルカイダのナンバー2であるアイマン・アル・ザワヒリも近所に住んでいる。

パキスタンの保護下で郊外生活

 住環境は比較的快適で、2人はパキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)と地元住民に保護されているという。快適な郊外生活を求めてこのエリアにやってくるテロリストたちを、地元住民とISIは温かく迎えている。そう、ここはビジネスエリートが憧れるニューヨーク郊外の高級住宅地ラーチモントのパキスタン版なのだ。

 世界的なテロリストが近くにいても何の対策も取らないパキスタンが、CNNの報道に対しては素早い反応を見せた。ビンラディンらの潜伏を否定し、手垢のついた台詞を繰り返したのだ。「この手の話はたびたび浮上する」と、サムサム・ブハリ情報省副大臣は語った。「我々の対応は当初から明白だ。奴はここにはいない」

 ビンラディンとの接点はないというパキスタン当局の主張を信じる者はいないが、ブハリはさらにこう続けた。「NATOがビンラディンやザワヒリ、その他のテロリストの情報をもっているのなら、我々と情報を共有すべきだ。信頼できる情報を得れば、パキスタンの法律に則って行動を起こす」

 もっとも、パキスタンの法律に則って対応すれば、ビンラディンに山羊の丸焼きやお菓子の詰め合わせを贈って、一段と居心地よくさせるのが関の山。ISIのメンバーの半数は潜伏先情報への対応を真剣に考えているが、残りの半数はビンラディンのためにイスラマバード郊外の住宅街への引っ越し先探しで大忙しのはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中