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アメリカ社会

モスク建設反対論の薄っぺらな本音

2010年8月24日(火)17時22分
ウィリアム・サレタン

 「まじめな人々はこの問題について真剣に考えている」と彼は言うが、真剣に考えた結論は? 「グラウンド・ゼロの隣に13階建てのモスクやイスラム教のコミュニティセンターを作るべきではない」と言うが、なぜダメなのか。反対派の仲間と同じく、彼もモスク建設に反対することこそ「賢明で健全な反応」と繰り返すだけだ。

 ペイリンを別にすれば、彼らはバカではない。彼らは、グラウンド・ゼロ周辺からモスクを排除することを正当化する理屈を探し求めたが、見つけられなかった。

 彼らが代わりに見つけた切り札は、イスラム教徒全員に連帯責任を押し付けることだった。「イスラム教が9・11テロの原因ではないが、その象徴的な意味と、ニューヨーカーやテロ犠牲者の感情は軽視できない」と、ナショナル・レビューのラウリーは指摘する。
 
 クラウトハマーもこう付け加える。「グラウンド・ゼロは世界的なテロ活動のなかで最大の被害を出した攻撃の舞台だ。そうしたテロ活動はイスラム教徒がイスラムの名の下に行い、イスラム社会に深く根付いている。残念なことだが、それが事実だ。だから、この場所にイスラム教の記念建造物を建てるのは無神経なだけでなく、挑発的なのだ」

 この言葉こそ、反対派の言う「思いやり」の裏にある本音だ。イスラム教徒が大量虐殺を行ったのだから、この場所にイスラム教の礼拝所を作るべきではない──。

 9・11テロについてイスラム教徒に怒りを感じるのは自然なことだ。実際、キリスト教徒とイスラム教徒は何世紀にも渡って憎しみ合い、殺しあってきた。

 その歴史に比べれば、今回のモスク論争はずっと進化している。イスラム教徒を殺したり、信教の自由を禁じるような動きはない。「モスクを別の場所に移すことで、仲良くやっていくために必要な好意を示せる」と、ヒューズは提案する。「そうした善意によって、より思慮深い対話が可能となり、この論争で生じた醜悪さの一部を解消できるかもしれない」

建設地を遠ざけても議論は進展しない

 だが、モスク建設計画への嫌悪感が理不尽で感情的なものであるなら、つまり、イスラム教徒とテロリストを区別できないせいで嫌悪感を感じるのだとすれば、感情論を乗り越えるべきなのは私たちのほうだ。

 「思いやり」という主張の本質がイスラム教への偏見という理不尽なものであることを理解すれば、現行の予定地にモスクを建てていけない理由はない。あの場所で以前から祈りを続けているイスラム教徒らに対して、自分たちの本能的な嫌悪感を鎮めるために生活を変えるよう求めるのは間違っている。私たちは嫌悪感を乗り越えることができるし、乗り越えるべきだ。

 そして何より、アメリカにおけるイスラム教の位置づけについて、思慮深い議論をすべきだ。シャリア(イスラム法)とアメリカ合衆国憲法は矛盾していないと語った真意を、建設計画の中心人物であるラウフに尋ねよう。イスラム聖職者が、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスを非難しない理由を直視しよう。そして、過激派が新たな建物の建設資金を提供することがないよう、資金集めのプロセスの透明化を要求しよう。

 渦中のモスクの建設地をグラウンド・ゼロから遠ざけたところで、こうした議論は進展しない。誤った建設反対論を唱えるのは、もう終わりにしよう。

Slate.com特約)

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