最新記事

死生観

あの世の生を信じますか?

死後も意識は生き続けることを「科学的に」論じた本は、残された者たちの心の隙間を埋めることができるのか

2009年12月28日(月)11時00分
ジェリー・アドラー

 下の息子のマックスが亡くなって3カ月がたった昨年の春のこと。私が自宅のドアを開けると、階段にチョウが1匹、羽を休めていた。ニューヨークのブルックリンにあるわが家の周りでは見たことのない種類だったが、後で調べたところ、それはアメリカ北東部に生息するトラフアゲハの仲間だった。忘れもしない、私の誕生日の出来事だ。

 チョウといえば霊魂を指す比喩としてよく使われる。さなぎから羽化するさまが死者の復活を連想させるのかもしれない。子供に先立たれた親のための支援団体の会報でも、チョウや鳥が突然現れるとか、雲が何らかの形になるとか、ラジオから特定の歌が流れてくるといった事象が、亡き人と交信した証拠としてよく語られる。

 私自身はそんなことは信じていないし、そう思うことで心が慰められる人がいるのも理解できない。燃える知性と根性の持ち主だったマックスが、虫の姿を借りて無言のシグナルを送ってくるなんて、私は考えたくない。

 私がこの一件を思い出したのは、ディネシュ・デスーザの新著『死後の生──証拠(Life After Death:The Evidence)』を読んだためだ。著名な保守派の政治評論家でキリスト教に関する著作も多いデスーザは、私の体験をどう考えるだろうと思わずにはいられなかった。デスーザはこの本で、肉体的な死の後も意識は生き続けることを科学的な根拠から立証しようと試みている。

道徳律の存在が「証拠」に

   この本でデスーザが援用するのは量子力学や神経科学、そして倫理学だ。『死後の生』は、数学者デービッド・バーリンスキーの『悪魔は妄想である──無神論とえせ科学』や、遺伝学者フランシス・コリンズの『神の言葉』といった本の系譜に連なる。どれもキリスト教を信仰する著者が、キリスト教を懐疑的に論じる「新しい無神論」を知的に論破しようとするものだ。

 デスーザに言わせれば、新しい無神論という敵の出現は、21世紀にもキリスト教の真理を擁護し広める活動を続けるために神から賜ったチャンスだ。「(『ナルニア国物語』の作者でキリスト教擁護者としても有名な)C・S・ルイスは、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)のような彼が生きた時代の問題を取り上げた」とデスーザは指摘する。

「だが今日、われわれはダーウィン主義や脳科学、現代物理学、イスラム・テロといった新たな問いを抱えている。新しい無神論を説く人々が、信仰の問題を議論の俎上に載せてくれたのは好都合だ」

 デスーザは、われわれ現代人も中世ヨーロッパの人々と同じように、死後自分たちに何が起こるのか心底知りたがっていると決めてかかる。彼自身がそうなのだ。

 キリスト教の信者が相手なら、死後の生があることを説く必要はない。だからデスーザの説得の対象はキリスト教に懐疑的な人、つまり死ねばすべては無に帰すと信じることで心の平安を得ているであろう人々になる。だがそうした人々はデスーザの議論の進め方に反発するかもしれない。

 彼は命題を提示すると、公平を期すふりをして双方の主張について証拠を示す。そしてさっさと結論に進んでしまう(もちろん勝つのはデスーザが好む主張だ)。だがデスーザは、懐疑的な人々でさえ信じたい気持ちをある程度は持っていると思い込んでいる。

 死後の生を証明する「証拠」はどうしても間接的なものとなる。デスーザは自分自身が死者と交信したことがあるとは言っていない。その代わり、彼は人の心に目を向け、そこに普遍的な道徳律があることを見いだす。この道徳律は、「なんじの隣人を打倒せよ」というダーウィンの法則に反するような、自己犠牲と思いやりの行為を人間にさせるものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省

ワールド

再送トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措

ビジネス

FRB金利据え置き継続の公算、PCEが消費の慎重姿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中