最新記事

米政治

瀕死の医療保険改革を救う6つの提案

「死の審査会」など共和党が流布した嘘をはね返すには、オバマはこれまでの売り込みベタを脱する必要がある

2009年9月9日(水)19時30分
ジェレミー・ハーブ

最後のチャンス? 9月9日、オバマは異例の議会演説で巻き返しを図る(写真は2月24日) Kevin Lamarque-Reuters

 アメリカ人は医療保険改革を理解していない。複雑で感情的になりがちな問題だし、法案は「ハリー・ポッター」シリーズの最も分厚い巻より長いときている。

 CBSテレビが先週実施した世論調査によれば、アメリカ国民のおよそ3分の2がバラク・オバマ大統領の改革案は「分かりにくい」と考えており、大統領の説明が不十分だと答えた人は60%にのぼった。

 メディアも、改革案の本質的な部分はほとんど論じていない。ここ1カ月は、各地の対話集会で声を荒らげる人や、オバマの改革によって「デス・パネル(死の審査会)」が生まれるといった誤った主張ばかりが報じられた。

 とはいえ、こうした混乱はどこまでがオバマのアプローチのせいといえるのか。オバマ政権は「破綻したシステムを立て直す」「保険の対象を拡大する」といった言葉を並べ立てて、国民、とりわけ自分の保険に満足している人々に背を向けられてしまったようだ。

 オバマにとって9月9日に予定される上下両院合同本会議での演説は、改革懐疑派を推進派に変える貴重なチャンスだ。彼が世論を味方につけるための6つのアドバイスを提案しよう。

■シンプルで心に残る表現を繰り返す

 オバマの医療保険改革は連邦政府を「死の審査会」にするというサラ・ペイリン前アラスカ州知事の発言は、誤っているにもかかわらず、山火事のようにあっという間に広がった。なぜか。人々の感情に訴える印象的な表現だったからだ。

 医療保険のように複雑な問題では、議論も難解で味気ないものになりがちだ。だから人々は「感情に訴える簡単な表現」を求めると、カーネギーメロン大学のクリス・ラバシュ教授(コミュニケーション学)は言う。「オバマ政権は(「死の審査会」のような)感情に訴える表現を使ったことがない」

 心に残るキーワードを繰り返し使えば、医療保険改革にポジティブなイメージを与えられると、ラバシュは言う。アップル社も同じような手法で、「マック」といえばスタイリッシュで品がいいというイメージを確立した。要はブランド戦略だ。

■今の保険に満足している国民に恩恵を説明する

 医療保険改革の目的の1つは、4700万人の無保険者を助けること。それは誰もが知っているが、すでに保険に入っている人はどうなるのか。彼らには、オバマの改革が自分たちの受ける医療をどう改善するかが見えていない。

「人々が知りたいのは、自分にどんな恩恵や損失をもたらすかだ」と、ブランダイス大学のスチュアート・アルトマン教授(医療政策)は言う。すでに保険に入っている人が改革で悪影響をこうむることはないとオバマは言うが、全面的な制度改革を行うのに自分たちに影響がないはずがないと、多くの人は考えている。

 自分に影響がないなら、支持する気にならないという人もいる。オバマは「改革しなければ今あるものが失われる」と訴えるように方針を変えるべきだと、リベラル系シンクタンクのブルッキングズ研究所のマーク・マクレランは言う。改革によって状況の悪化が防げると分かれば、反対の声も減るだろう。

■公的医療保険について立場を決める

 オバマは当初、パブリック・オプション(公的医療保険制度)の導入に肯定的だった。だがその後に反対とも取れる立場に転じ、今は反対ではないが明確に賛成もしていない。オバマは自分の立場をはっきり決めて、それを貫くべきだ。

「(オバマが)あいまいな発言をするたびに反対派がつけこんでくる」と広告代理店エレメント79のクリエーティブ部門責任者、デニス・ライアンは言う。そのせいで議論の焦点がぼやけ、メディケイド(低所得者医療保険制度)の拡充など重要な改革の一部が目立たなくなってしまった。オバマが公的医療保険制度をめぐる態度を明確にすれば、改革をより力強く推進できるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランから武器供給の要請ない=ロシア大統領府

ビジネス

ECB、イラン紛争の早期終結を過度に楽観すべきでな

ビジネス

UAE中銀総裁、金融セクターは強固と強調 不安払拭

ビジネス

英建設業PMI、14カ月連続の50割れ 金融危機以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中