最新記事

米外交

パニクるブッシュ vs 優柔不断オバマ

事態の急展開という意味で、今はオバマの「9・11モーメント」かもしれない。迷ってばかりでアフガン政策を決断できない大統領に、私は初めて不安を感じ始めている

2009年9月30日(水)18時36分
トーマス・リックス(ワシントン・ポスト紙軍事担当記者)

真価を発揮 小学校視察中に9・11テロの知らせを受けたブッシュは、しばし呆然とした(2001年) Win McNamee-Reuters

 ジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した際、安全保障担当者の多くが政権の「対戦相手」は中国だと信じていた。ブッシュ政権の要となる外交政策は、中国の台頭とロシアの衰退をコントロールすることだという声もあった。大統領就任からわずか2カ月後に中国の戦闘機が米軍の偵察機EP3と接触した事故も、こうした見解を裏付けるものだった。

 ところが就任から9カ月後、イスラム過激派による9・11テロが勃発すると状況は急変した。その際のブッシュの反応は、一言でいえば「パニック」。車のヘッドライトに照らられて身動きできない鹿のように立ち尽くしたかと思えば、カウボーイのようにマッチョに振る舞った。

 バラク・オバマ大統領にも、選挙期間中には想定していなかった方向に事態が急展開する9・11のようなターニングポイントが訪れているのかもしれない。オバマはイランを封じ込め、イラクからの米軍撤退を進め、アフガニスタン戦争の潮目を変えることが自分の任務だと信じて大統領に就任したのだろう。

 イラン問題は多国間連携による封じ込めの方向に向かっており、成功していると言える。だがイラクについては、いくつかの人事に失敗し、米軍を一カ月に一旅団のペースで撤退させるという公約を破った以外にはほとんど何もしていない。そしてアフガニスタン問題では、3月に発表した戦略を最近になって見直そうとしているようにみえる。

 想定外の事態を前にしたときのオバマの反応を一言で言うと「躊躇」だと思う。読者のなかには、それこそ指導力の証と考える人もいるだろうが、私はそうは思わない。何カ月もかけてアフガニスタン戦略を練り、決断を下したと思ったら、今度は司令官に意見を求め、再び何週間もかけて戦略を見直す。こんなやり方はリーダーシップとは言えない。

戦場では中間の道が最も危ない

 極端に走らないオバマの性格に潜む危険について、ラジフ・チャンドラセカランはワシントン・ポスト紙日曜版にこう書いている。
 


アフガニスタンでオバマに残された選択肢は、どれも受け入れがたいものだ。イラクでは米軍撤退のタイムラインに関する複数の提案のなかから、オバマは中間の案を選んだ。医療保険制度改革やテロ容疑者の拘置問題でも似たような傾向を見せている。だがアフガニスタンでは、そのアプローチは最悪の結果につながる可能性がある。

 大幅な増派計画を議会に承認させるのは困難だろう。だが、アフガニスタンでの米軍の役割を縮小すれば、「ブレた」という印象を与えかねない。オバマは先月、退役軍人に向けた演説で、アフガニスタン紛争は「必要な戦争」で、アメリカの安全保障の基本だと話したばかりなのだ。

 両者を足して2で割ったような妥協案を選べば、米軍が果たすべき役割の範囲に疑問をもちはじめている有権者はもちろん、民主党と共和党双方の穏健派の支持も得られるかもしれない。

 だが、オバマはそうした誘惑に打ち勝つべきだ。政治において中間地点は安全地帯であることが多いが、戦場では最も危険な場所になりうる。


 私はいま初めて、オバマの外交手腕に不安を抱きはじめている。有事にパニクる指導者よりは、まだましではあるが。


Reprinted with permission from "The Best Defense" blog, 30/09/2009 © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラがインド市場参入、「モデルY」を7万ドルで販

ビジネス

訪日客の売り上げ3割減 6月、高島屋とJフロント

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB期間を8月1日まで延長 

ワールド

トランプ政権、不法移民の一時解放認めず=内部メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中