最新記事

追悼

共にニクソンと戦ったクロンカイト

2009年7月22日(水)15時16分
ベン・ブラッドリー(ウォーターゲート事件当時のワシントン・ポスト編集主幹、元本誌ワシントン支局長)

テレビジャーナリストの草分け(1974年) CBS Photo Archive/Getty Images

 ウォルター・クロンカイト(享年92歳)はテレビジャーナリストの草分け的存在で、ライバルといえばABCテレビのデービッド・ブリンクリーぐらいだった。ただしクロンカイトは大御所の雰囲気を漂わせながら、父親のような温かみがあり、それが彼を特別な存在にしていた。

 72年10月、クロンカイトは自らキャスターを務める『CBSイブニング・ニュース』で、2夜連続でウォーターゲート事件の特集を組んだ。1日目の放送は14分、2日目は8分だった。後者はニクソン大統領側の反応を心配したCBSのウィリアム・ペイリー会長が放送時間を短縮させたのだろう。

 クロンカイトがウォーターゲート事件を取り上げた(しかもかなりの時間を割いて)という事実は、事件にある種の信憑性を与えた。それこそ私たちワシントン・ポストが必要としていたものだった。

 72年は大統領選の年で、誰もが「ワシントン・ポストの報道はニクソン降ろしを狙う政治的なもの」と言っていた。テレビジャーナリストのトップに君臨していたクロンカイトが事件を報じると人々は「クロンカイトもワシントン・ポストの味方か」と嘆いた。

 ウォーターゲートは、テレビでは伝えにくい事件だった。資料も決定的な証拠もなく、視聴者に見せられるものは何もない。だからCBSは、ワシントン・ポストの紙面を画面に映すという方法を取った。私たちに取っては、これもうれしいことだった。

 CBSはワシントン・ポスト、そして事件を担当した記者のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインを英雄とたたえた。彼らほどでないにせよ、私のことも英雄扱いしてくれた。これは大変なことで、一夜にして変化を感じることができた。

 それでも、アメリカ中がこの放送に影響されたわけではなかった。クロンカイトの報道から約10日後、ニクソンはライバルに大差をつけて大統領に再選された。

 だが、事件を追っている私たちは放送の影響を感じていた。私たちを信じていなかったワシントンの面々の多くが、クロンカイトの報道をきっかけに考えを改めた。「彼は、当てにならない連中の味方をするような男ではない」と。

 クロンカイトは、表情やしぐさによって事の重大さを伝えられる人物だった。若くもなく、強引さもなく、むやみに攻撃的でもなかった。本当にいい人だった。

 権力を相手に戦うときは仲間を選ぶことなどできないが、1人だけ選ぶとすればクロンカイトはうってつけの人物だった。誰もが彼を尊敬していた。ジャーナリストとして絶大な影響力を持ち、唯一、すべての米国民に好かれたジャーナリストだった。

[2009年7月29日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インド4─6月期GDP、7.8%増 米関税の影響に

ワールド

安全保障巡り「首脳レベルの協議望む」=ウクライナ大

ワールド

ロ軍、ウクライナへの進軍加速 1カ月最大700平方

ワールド

カナダGDP、第2四半期は1.6%減 米関税措置で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中