安易な色眼鏡を捨てる時
中南米系女性の最高裁判事就任をめぐる的外れ批判が多人種社会アメリカの根強い偏見を浮き彫りにする
実力派 先入観を持たれがちなソトマイヨール(5月26日) Larry Downing-Reuters
法曹界における輝かしいキャリアで得た知識と経験だけでなく、困難な人生経験を通じて積み重ねてきた知恵を持っている──。バラク・オバマ米大統領はニューヨーク連邦高裁判事のソニア・ソトマイヨールを連邦最高裁判事に指名すると発表したとき、慣例どおり惜しみなく賛辞を並べた。
ありきたりな意味ではない。彼女の名前が正式に発表される前から、連邦最高裁判事にふさわしい知性をめぐり非難が広まっていたことを意識した言葉だ。
きっかけはニュー・リパブリック誌がソトマイヨールに「保守派判事と渡り合える知的な重み」があるのかと疑問を投げ掛けたこと。この論調はブログなどで広まり、ナショナル・レビュー誌に至っては、彼女は「ばか者」なだけでなく「不愉快」だと述べた。
最初に断っておくと、私はソトマイヨールの友人だ。しかし友人でなかったとしても、プリンストン大学を首席レベルで卒業し、エール大学法科大学院時代にエール・ロー・ジャーナル誌の編集に携わった彼女の知性を軽んじる論調は、奇怪で理解できないと思う。
判決における彼女の考え方に対して論理的な疑問を持つことはいくらでもある。しかしばか者などという言い方は、それこそばか者でしかない。
先入観を呼ぶ怠惰な心
ロー・ジャーナルでソトマイヨールと一緒だったコロンビア大学のスーザン・スターム教授は、一連の攻撃を「典型的な世論形成過程」とみる。ブロンクス出身の貧しいプエルトリコ系少女が名門大学で学べたのは差別是正措置(アファーマティブ・アクション)のおかげだから、本人がそれほど優秀なのではないというわけだ。
こうした非難を信じる人が一部とはいえいるのはなぜか。ソトマイヨールの能力に安易に疑問符を付けるのを、そろそろやめるときではないだろうか。
プリンストン大学入学に当たり、ソトマイヨールの人種と性別の持った意味は私には分からない。しかし彼女と同じ境遇(小児糖尿病、父親の死、低所得者層向け公営住宅での生活、外国語で育った子供時代)を乗り越え、進学校で優秀な成績を収めた志願者なら、白人男子学生でもアイビーリーグは大歓迎するに違いない。
なぜ人々は確かな証拠もなしに、ソトマイヨールの知性を簡単に疑うのか。それは先入観を持つのに証拠は必要なく、怠惰な心があればそれを受け入れてしまうからだ。
ソトマイヨールは司法積極主義(立法の欠陥や不作為に対し、裁判所が違憲審査権を積極的に行使する立場)の支持者で、女性とヒスパニック系としての経験を無関係の議論で持ち出すだろうという非難もある。彼女をよく知る人々は、そうした見方を笑い飛ばす。高校の同窓生であるコロンビア大学のテッド・ショー教授によると、彼女は「大義を掲げるタイプ」ではなく、積極主義者だったのは「すべてのことで秀でようとしていた」点だけだ。
ソトマイヨールを人種差別主義の過激派であるかのように語る保守派もいる。だが皮肉なことにヒスパニック系の著名な論客のなかには、彼女は公平過ぎて、ヒスパニック社会寄りの立場を取ろうとしないという批判もある。
出自の影響については本人も、女性とヒスパニック系としての経験が白人男性とは違う見方につながるだろうと認めている。もっとも、これは当たり前のことを言っているにすぎないとスタームは語る。すべての判事には自分の経験に基づく先入観があるのだ。
連邦最高裁の橋渡し役
最近のニューヨーカー誌で作家兼弁護士のジェフリー・トゥービンは、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官が超特権階級の出身であることが、富と権力の味方という明らかな先入観を生んでいると主張している。オバマは上院議員時代にロバーツの指名に反対票を投じた際、その点を懸念していた。