最新記事

追悼マイケル・ジャクソン

裁判スリラー、緊迫の最終章へ

14週に及んだ注目の裁判の最終弁論がついに終了。性的虐待はあったのか、マイケル・ジャクソンの運命は12人の陪審員にゆだねられた

2009年6月26日(金)18時18分
ノミ・モリス

体調不良? ボディガードに支えられて裁判所に到着(05年3月10日) Kimberly White-Reuters

 マイケル・ジャクソンは、本当に少年に性的虐待をしたのか。その判断がもうじき下される。6月3日、カリフォルニア州サンタマリア地裁で最終弁論が終了し、陪審団が審議を始めた。有罪とみなされれば、かつてのスーパースターはしばらくの間、刑務所で暮らすことになるかもしれない。

「ジャクソンの人生、将来、名声と自由はみなさんの手中にある」と、ジャクソン側のトーマス・メゼロー弁護士は12人の陪審員に訴えた。有罪評決はジャクソンを「打ちのめすかもしれない」ともつけ加えた。

 メゼローは一貫して、この件は原告の少年と家族のでっちあげだと言い続けてきた。3日の最終意見陳述でも「少しでも疑いをもつのなら、無罪にしなければならない」と陪審団に語り、少年と母親は金目当ての詐欺師だと主張した。「ジャクソンを有罪にすれば、家族は億万長者になる」

最長20年の禁固刑になる可能性も

 メゼローは、弁論を30分ほどのビデオで締めくくった。ジャクソンが少年時代のつらい思い出や子供への愛情を語ったビデオだったという。

 続いて、ロン・ゾーネン検事が最後の反証をした。以前の論告求刑でゾーネンは、当時13歳だった少年がジャクソンの自宅「ネバーランド」の寝室でポルノ映像を見せられ、性的暴行を受けたという原告の言葉は「すべて事実で、信じなければならない」と訴え、「ジャクソンは責任を取るべきだ」と主張した。

 ゾーネンは反証で、ジャクソンを「欲求や衝動を抑えることができない」男と呼び、自分の子供が少年と同じ目にあったらどう思うかと、陪審団に問いかけた。

 さらに、03年6月に少年がジャクソンに性的暴行を受けたと警察に証言する映像を再び提示。「これは、一人の男によって辱められた少年が語った紛れもない事実だ」とゾーネンは言い、少年は「演技の才能がある」と主張する被告側に反論した。

 2本のビデオは、14週間に及んだ法廷での争いをドラマチックに締めくくった。この2本は「有力な証拠になる」と、長年検察官と弁護士を務めた法務コンサルタントのマイケル・ガードーザは言う。「法廷の空気は明白だった」

 裁判所に詰めかけた1200人もの報道陣と、熱狂的なファンの前に、ジャクソンは青白くげっそりとした姿で現れた。その前の晩、地元の病院で脱水症の治療を受けていたらしく、母親や親族に支えられながら出廷した。

 ジャクソンには10件の容疑がかけられている。原告の少年と家族を誘拐しようとした共謀容疑が1件、少年への性的虐待の疑いが4件、虐待未遂容疑が1件と、未成年者への飲酒強要の容疑が4件だ。すべてが有罪なら、最長20年もの禁固刑を受ける可能性がある。

少年と家族の話は本当なのか

 法的な証拠がほとんどないこの裁判は、どちらの言い分を信じるかが焦点になる。「すべては、少年と家族の証言の信憑性次第だ」と、CBSニュースのアナリスト、アンドルー・コーエン弁護士は言う。「最終的には陪審団が決めなくてはならない」

 ジャクソンは法廷を去るときもノーコメントで通した。このところ体調が悪そうなジャクソンだが、彼の広報担当者のレイモーン・ベインに言わせれば、本人は「身体的には健康」らしい。

 とはいえ、裁判の結果には相当神経質になっているようだ。評決を待つ間、ジャクソンはどう過ごすのかと記者団に問われたベインは、「彼はじっとしていられないだろう」と言った。「彼は家族とくつろぐつもりだ。あなた方のなかに、彼と同じ立場に立ちたいと思う人はいないでしょう」

[2005年6月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省

ワールド

再送トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措

ビジネス

FRB金利据え置き継続の公算、PCEが消費の慎重姿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中