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AI製バンドが100万リスナー突破...問われる「音楽の正体」

AI and the Future of Music

2025年12月1日(月)11時59分
ゴードン・ガウ(カナダ・アルバータ大学教授)、ブライアン・フォトー(同准教授)
AI製バンドが100万リスナー突破...問われる「音楽の正体」

話題をさらった「AIバンド」は巧妙な実験か、詐欺師の戯れか。新たなテクノロジーの可能性と未知のリスクを突き付けられて、音楽業界は後手に回っている SOMETHING SPECIAL/SHUTTERSTOCK

<実在しないAI生成バンド「ザ・ベルベット・サンダウン」がSpotifyで月間100万リスナーを獲得した。音楽業界は生成AIの利用にどう対応するか模索中>

今年6月、ザ・ベルベット・サンダウンというバンドが突如、現れた。レトロポップな楽曲が音楽ストリーミング配信大手スポティファイで数十万回の再生数を記録し、月間リスナー100万人を達成した。

ただし、このバンドは実在しない。楽曲も、画像もバンドのプロフィールも、誰かが生成AIを使って作ったものだ。痛快な実験だと喜ぶ人もいるが、一方で、音楽制作における透明性の問題が浮き彫りになった。

9月にスポティファイは、生成AIをめぐる新しい方針を発表。デジタル音楽がユーザーに届くまでの価値の流れの透明化・効率化を目指す業界団体DDEXが「音楽クレジットのAI使用開示の新たな業界標準」を策定していることを支援すると表明した。

さらに、アーティストの成り済ましの取り締まり強化や、新たなスパム・フィルタリングシステムの導入に注力していると強調。これらは「アーティスト、権利保有者、リスナーのために、より信頼できる音楽エコシステムを支える最新の取り組み」だと述べている。

AIが音楽制作にますます浸透している今、創造において正しく利用することと、倫理的・経済的圧力とのバランスを取ることが求められている。AI使用の開示は説明責任というだけでなく、リスナーが高い透明性の下でアーティストや楽曲を選択するためにも不可欠だ。

透明性を高めるために

AIの新たな用途や可能性に、音楽業界の対応は場当たり的なものも少なくない。

2023年4月、歌手ドレイクとザ・ウィークエンドの声を学習したAIソフトが作成した楽曲「ハート・オン・マイ・スリーブ」が配信され、大きな話題を呼んだ。著作権侵害の申し立てを受けてアップルミュージックやスポティファイなど大手プラットフォームが削除する前に、再生回数は数百万回に達していた。

アーティストが楽曲をプロモーションするプラットフォーム「サブミットハブ」では、制作においてAIが「主要な役割」を担っているかどうかを申告しなければならない。また、楽曲のファイルをスキャンしてAIの使用を検出するツール「AIソングチェッカー」を提供している。

スポティファイが生成AIの開示を重視することは、アーティストがAIを多様な形で利用している現状を認めるということでもある。こうした手法を禁止するのではなく、透明性を高めるための情報表示の議論へと進むのだ。

コンテンツについての明確な表示は、視聴者が正しい情報に基づいて選択できるように長年、活用されてきた。例えば、映画やテレビ番組、音楽には年齢制限の表示がある。

デジタルの音楽ファイルにはメタデータと呼ばれる情報タグが埋め込まれており、ジャンル、テンポ、アーティストなどの詳細が記録されている。プラットフォームはこれを利用して楽曲を分類し、著作権使用料を計算して、リスナーに新しい曲を提案する。

スポティファイのザ・ベルベット・サンダウンのページ

AIについての情報表示は、AIとの協業に興味がある人も、人間による従来の制作手法にこだわりたい人も、自分の好みに合った音楽を見つけやすくなる。

スポティファイは今後、アーティストや権利保有者に、AIが楽曲のどの部分に、どのように貢献したかを明記することを求める。ボーカルや楽器演奏に使ったのか、ミキシングやマスタリングといったポストプロダクションに使ったのかなどを明示させる。

エレキギターも歩んだ道

創造に新しい技術を取り入れることは、音楽の長い伝統でもある。シンセサイザーも、ドラムマシンやサンプラーも、さらにはエレキギターも、最初は物議を醸した。

ただし、AIに関する開示が、ストリーミングプラットフォームがAIが自動で作ったコンテンツを氾濫させる免罪符になってはならない。

さらに、AI使用の情報は簡単にアクセスできることが重要だ。例えば、スポティファイのザ・ベルベット・サンダウンのプロフィール欄は更新され、AIで生成されたことが明記されているが、リスナーが詳しく読もうとしなければ目に入りにくい。

音楽の分野にAIが浸透しつつあることは、労働と報酬、業界の力関係、ライセンスや権利などについても喫緊の課題を提起している。著作権協会国際連合(CISAC)が委託した調査によると、生成AIを使ったアウトプットは、28年までに音楽クリエーターの収益の24%を危険にさらす可能性がある。

人気の高いAI音楽プラットフォームは、大手IT企業が支配している。AIは創造力を一部のプラットフォームにさらに集中させるのか。それとも制作コストを削減し、インディーズのアーティストに広く使われるツールとなるのか。楽曲をAIの訓練に利用する契約に所属レーベルが関与した場合、アーティストは正当な報酬を得られるのか。

重要なのは、リスナーに選択肢を与えることだ。直感的なラベルやアイコンでAIの使用を確認できるようにするなど、開示基準をより可視化すれば、人間とアルゴリズムがどのように協働しているのかが分かりやすいだろう。

リスナーには自分が好きな音楽がどのように作られたかを知る権利があり、アーティストにはそれを説明する機会が与えられるべきだ。

適切に設計されたAI音楽ラベルは、開示をコンプライアンス以上のものに変えるだろう。そして、音楽を愛する人々に、創造のプロセスについてより深く考えるきっかけを与えるかもしれない。

The Conversation

Gordon A. Gow, Director, Media & Technology Studies, The University of Alberta

Brian Fauteux, Associate Professor Popular Music and Media Studies, The University of Alberta

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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