最新記事
AIアート

あるAIの歌 10年前に他界した妻の歌声と写真を再現する理由──第一回AIアートグランプリ受賞

2023年3月29日(水)20時10分
松尾公也

「第一回AIアートグランプリ」受賞作となった「Desperado - - Diff-SVC generated 妻音源とりちゃん[AI]」 Koya Matsuo

<AIを使ったアート作品を競うコンテスト「第一回AIアートグランプリ」で、グランプリ受賞作が生まれた経緯とは......>

2022年の夏、かつてのパソコンブーム、インターネットの大衆化、スマートフォンの普及に匹敵すると思われる動きがありました。ジェネレーティブ(生成系)AIの登場です。

最初はイラスト・写真をAIで生成することが注目され、現在ではChatGPTをはじめとするテキスト生成によるAIとのインタラクティブなやり取りがマイクロソフトやグーグルなどのビッグテックを中心に、新しい産業革命とも言うべき大きなうねりを引き起こしています。

クリエイティブな世界においても生成系AIという新しい道具の登場で、アーティストたちの心は大きく揺さぶられました。それに呼応するように誕生したのが、AIを使ったアート作品を競うコンテスト、「第一回AIアートグランプリ」です。

matuo_higuchi.jpeg

授賞式での筆者(左)と審査員の樋口真嗣監督

10年ほど前、写真、動画と3曲分の妻の歌声が残された

3月12日、その最終審査会が行われ、自分の投稿作品「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」がグランプリを受賞しました。素人が歌うクラシックロックのカバー曲。それが受賞するに至った背景をお話したいと思います。

Desperado - - Diff-SVC generated 妻音源とりちゃん[AI]


Desperado by 妻音源とりちゃん[AI](第一回AIアートグランプリ プレゼンテーション動画)

「とりちゃん」というのは旧姓が白鳥だったことに由来する妻のニックネームです。妻音源とついているのは、妻本人が歌ったものではなく、合成音声であるからで、[AI]とあるのは、その合成音声をAIによって生成しているためです。

なぜ本人歌唱ではないかというと、妻は10年近く前、2013年6月25日にこの世から旅立ったからです。乳がんのステージ4でした。妻の最期の言葉は「だいすき。ありがとう。さよなら」。

彼女が18歳のときから50歳までずっと一緒に生きて、共通の趣味だった音楽を歌い、演奏してきました。2013年には二人のデュエットで音楽コンテストにも応募しました。妻が旅立ったあと、自分のもとには写真、動画、そして3曲分の彼女の歌声が残されました。

歌声合成技術を追いかけて記事にしていた自分に、残された音声の素片を組み合わせることで、新たな歌を録音できるという考えが浮かびました。老後は一緒に音楽を作って過ごそう。そんな考えだった二人の夢が叶えられるかもしれません。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ「安全保証」枠組み、来週にも策定へ=ゼレ

ワールド

ロ、ウクライナ和平交渉の推進に引き続き関心=大統領

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、7月は‐0.4% 高金利と雇

ワールド

中ロ首脳会談、貿易拡大策テーマに プーチン氏が近く
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    米ロ首脳会談の後、プーチンが「尻尾を振る相手」...…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「風力発電」能力が高い国はどこ…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中