最新記事

育児

胎児のときから将来の学歴は決まってる ── 最新科学が裏付けた「親ガチャ」の残酷な事実

2022年12月4日(日)11時18分
安藤寿康(慶應義塾大学文学部教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

MARHARYTA MARKO - iStockphoto


「生まれと育ち」はどちらが重要なのか。慶應義塾大学文学部の安藤寿康教授は「2016年以降、遺伝と学歴に関する研究が急速に進んでいる。最新の研究では、遺伝的なスコアが高いほど最終学歴が高くなることが分かっている。将来的には、胎児の段階で学歴がある程度まで予測できるようになる可能性もある」という――。

※本稿は、安藤寿康『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SB新書)の一部を再編集したものです。

「遺伝学では個人レベルの能力はわからない」が常識だったが......

Q 人の才能は遺伝子で決まってしまうの?
A 個人レベルで遺伝子を調べることにより、ある程度は能力を予測することが可能になりつつあります。

行動遺伝学における遺伝研究の中心的手法は双生児法です。双生児法によって、どんな能力についても遺伝の影響が50パーセントはあるということが明らかになりました。注意してほしいのは、双生児法によって算出される遺伝の影響はあくまでも集団レベルの統計量だということ。研究の対象となった集団において、ある表現型のばらつきがどれくらい遺伝のばらつきで説明できるか、環境によって変化させるのがどの程度難しいかを示しているにすぎません。

例えば、体重の遺伝率は90パーセント以上だということはわかっています。これは環境を変えても体重を変えるのは一般的にはなかなか難しいですよということを示しているのであり、あなた個人にぴったり合ったダイエット法に出会って、体重が劇的に減ることは絶対にありえないとまでは言っていないのです。

まあ体重に関して言えば、生物学的な代謝のメカニズムによるわけですから、痩せている人が暴飲暴食をして太るのは、その逆よりはだいぶ簡単だとは思いますが。

双生児法の示す遺伝率は、あなたにどんな能力があるのか、将来どうなっていくのかを一般的な意味で示すことしかできません。個人レベルでどのような能力があるのか、あるいは将来的にどうなるのかを知ることはできない――というのが2010年代半ばまでの常識でした。

2000年代初頭に登場した手法が病気のリスク分析を可能にした

一方、2000年代初頭には、ゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome Wide Association Study)という手法が登場しました。GWASは、異なる個人間のゲノム全域について、遺伝的な変異のある場所と表現型との関係を調べるというもの。それを使って「こういう遺伝的変異があると、表現型にこれくらいの影響がありそう」ということを、ポリジェニックスコアという点数で表します。

調査対象とする遺伝的変異は、おもにSNP(スニップ:Single Nucleotide Polymorphism)、一塩基多型です。SNPというのは、他の人と比べて、1カ所の塩基だけが異なっている変異を指します。GWAS以前の遺伝子解析手法ではモノジェニック、つまり、ある1つの遺伝子の変異がどのように表現型に影響するかを調べることしかできませんでした。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ベトナム、台風11号の死者150人超 ハノイで紅河

ワールド

情報BOX:米大統領選討論会、ハリス氏の「煽り作戦

ビジネス

ウニクレディト、コメルツ銀買収観測再燃 独政府から

ワールド

アングル:自民総裁選、市場は「岸田路線」の継続性を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 2
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARSのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 3
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 4
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 5
    運河に浮かぶのは「人間の手」? 通報を受けた警官…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 9
    「生後45日までの子犬、宅配便で配送します」 韓国ペ…
  • 10
    米大統領選でトランプ・バンス陣営を襲う「ソファで…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中