最新記事

ノンフィクション

人類の未来をつくり出した「7年間一度も座ったことがない男」:AI誕生秘話

2021年11月30日(火)19時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

geniusmakers20211130-2.jpg

imaginima-iStock.

グーグルと中国のバイドゥが競り合った

ニューラルネットワークの概念が生まれたのは1950年に遡るが、初期の先駆者たちは期待していたような結果を一度も出すことができなかった。数学的なシステムが、なんらかの方法で人間の脳の働きを再現するという50年前の奇抜な思いつきを形にできるなど、誰も信じていなかったからだ。

そんな中で、ヒントンはニューラルネットワークがいつの日か期待した成果をあげると固く信じていた数少ない研究者のひとりだった。大学に研究の同士を雇ってほしいと要求しても、長年拒絶されてきたという。

「こんな研究を好んでするようないかれた人間は、ひとりで十分というわけだ」と、ヒントンは語っている。

誰にも期待されず、己の信念とともに研究に邁進していたヒントンと2人の学生がブレイクスルーをもたらしたのは、2012年の春と夏のこと。

ニューラルネットワークが、ほかのどんな技術をも凌駕する正確さで一般的な物体を認識できると証明することができたのだ。

その秋に発表したたった9ページの論文で、ヒントンが長いあいだ主張してきたように、この概念が強力なものであることを世界に知らしめることになった。

「DNNリサーチ」に対する破格の入札競争が始まると、先に紹介した4社が、1200万ドル、1500万ドル......とどんどん価格を釣り上げていった。

最終的に残ったのはバイドゥとグーグル。価格が4400万ドルに達すると、ヒントンはオークションの終了を告げた。

ヒントンは終了までに、価格をこれ以上つり上げずに、グーグルに会社を売却しようと決めていた。自分たちの研究によってふさわしい場であること、そしてヒントンの腰の状態からすると、中国へ行くのは到底無理であったことも決め手だったと、ヒントンはのちに語っている。

これをきっかけに、ヒントンたちは彼らのアイデアをテクノロジー業界の中心へと押し出すことができた。

音声認識アシスタント、自動運転車、ロボット工学、ヘルスケアの自動化、そして彼らの意図に反して戦争と監視の自動化も含めた人工知能が、急激に発達していったのは自明の通りだ。

AIがもたらす負の側面にも目を向ける

先の入札に参加していたスタートアップ企業は、「アルファ碁」の開発で知られるディープマインド社である。今ではグーグル傘下となり、この10年間で最も有名で影響力の大きいAI研究所へと成長した。

囲碁は人工知能にとって、最も難しいとされるゲームのひとつとして知られる。盤面がほかのゲームに比べて広く、コンピューターでも計算しきれないためだ。

その囲碁において、ディープマインド社が作りあげたAIが世界最高峰のプロ棋士に勝利したことが、2015年、世界中を震撼させた。ついにAIがディープラーニングによる自己学習で、人間を打ち負かしたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米主要港ロサンゼルス、5月の輸入は前年比9%減 対

ワールド

ベトナム、米との貿易交渉進展 主要な問題は未解決

ワールド

ベトナムがBRICS「パートナー国」に 10番目の

ワールド

トランプ米政権、入国制限に36カ国追加を検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中