コラム

手に汗握るディープラーニング誕生秘話。NYタイムズ記者が書いた「ジーニアス・メーカーズ」【書籍レビュー】

2021年10月22日(金)15時15分

未来を牛耳る頭脳とカネの物語 oonal-iStock.

<興味深いエピソードを交えて綴られる、AI開発の主役たちと彼らが目指す人類の未来>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

──ヒントン教授が腰痛持ちでなければ、AIは中国が先行していたかも知れない。
──ディープラーニングの誕生には、日本の基礎研究が不可欠だった。

ニューヨークタイムズのテクノロジー担当、ケイド・メッツ記者が書いた「ジーニアス・メーカーズ」は、こうした一般的にあまり知られていないディープラーニング誕生秘話が満載されている。

「ディープラーニングの3人の父」と言われる人物の1人、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授を雇用しようと、最初に熱心にオファーしてきたのは中国のテック大手バイドゥだった。その後、すぐにGoogleやMicrosoftなどの米国のテック大手も同様にオファーしてきた。

GoogleのAIを進化させた男

ヒントン教授はバイドゥの担当者と懇意にしていたが、最終的にはGoogleのオファーを受けることにした。同教授は大変な腰痛持ちで、数分以上イスに座り続けることができない。カナダと地続きの米国なら、列車や車の座席に横たわって移動することが可能だが、中国へは飛行機で行かなければならない。飛行機の離着陸時には席に座っていなければならない。腰痛のことを考えてバイドゥのオファーを辞退することにした、と同教授は語っている。

結局Googleが同教授を雇用することに成功し、Googleはすべての技術をAIベースのものに移行。AIの開発競争で他社よりも一歩先に出ることになる。もし同教授が腰痛持ちではなく中国企業に勤めることになっていれば、中国がAIで圧倒的優位に立っていたかもしれない。歴史とは実に不思議なものだ。

この本には、こうしたディープラーニング誕生秘話がいくつも載っているのだが、もう1つ面白いと思ったのは、日本の研究がディープラーニングの基礎になっていたということだ。

実はこのことは、日本の研究者から何度か聞いたことがある。「ディープラーニングはもともと日本のアイデアだ」という研究者もいた。勝負に負けた負け惜しみかもしれない。そう思ったので、私の中でそうした意見を「保留扱い」にしていた。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story