私はかつて、突然、身に覚えのない罪で逮捕されました。

 当時、厚生労働省に勤務していた私は、「郵便不正事件」と呼ばれることになったその事件で、障害者団体の関係者から依頼を受けて公文書を偽造したという、まったく身に覚えのない容疑をかけられたのです。当の私は、その人物に会った記憶すらありません。それなのに、自分の知らないところで、私が誰かと親しげに会話を交わし、便宜を図るよう部下に指示した――そんな具体的で生々しい供述が、複数の人たちによって語られていきました。(「はじめに」より)

『おどろきの刑事司法――“犯罪者”の作り方』(村木厚子・著、講談社現代新書)の著者は、本書の冒頭にこう記している。2009年6月のことだが、当時のことは私もはっきり記憶している。

『おどろきの刑事司法――“犯罪者”の作り方』

取調室で逮捕を告げられ家族の連絡先を聞かれた際、携帯電話で番号を調べるふりをしてご主人に「たいほ」とだけ打ち込んだメールを送った(漢字に変換する余裕すらなかったという)という話が、あまりにも生々しかったからだ。

何が起きているのか最初は理解できなかったというが、身に覚えがないのだから当然だろう。だが容疑を否認し続けた結果、164日間も拘置所に勾留されることになった。

何の前触れもなく、およそ半年にわたって自由を奪われたのだ。やはりそれは非現実的な体験であり、そのため拘置所内では、「もしかしたら、自分でも気づかないうちに別の人格になって法律に背く行為を行い、その記憶を失っているのではないか」とすら考えたという。

著者が逮捕・起訴された「郵便不正事件」は、「凛の会」という偽の障害者団体が、心身障害者向け定期刊行物の郵便料金割引制度を悪用して営利目的のダイレクトメールを多数発送し、通常郵便料金との差額を不正に免れたことに端を発する。

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