最新記事

医療

新型コロナの経口治療薬開発レース、シオノギら後発組も逆転狙う

2021年10月1日(金)17時19分

実際、抗ウイルス薬の開発は難しい。なぜなら既に人体の細胞内で複製されたウイルスを対象に、健康な細胞に痛手を与えずに攻撃しなければならないからだ。最も効果を発揮するには、早期投与が不可欠という条件もある。

現在は入院を必要としない新型コロナウイルス感染者向けに承認されている治療法は、点滴や注射による抗体薬の投与に限られている。

ジェフリーズが最近試算したところでは、有効で便利な新型コロナウイルスの治療手段が登場すれば、年間売上高は100億ドルを超える可能性がある。メルクは米政府との間で、モルヌピラビルによる治療料金を1回700ドルにする形の契約を結んでいる。

負担軽減を模索

これまで幾つかの種類の抗ウイルス薬が開発されている。例えば、当初はC型肝炎向けだったアテアの「ポリメラーゼ阻害剤」は、新型コロナウイルスの自己複製能力を破壊する。ファイザーの治験薬のような「プロテアーゼ阻害剤」は、ウイルス増殖初期段階で複製に必要な酵素との結びつきを防ぐ働きがある。

パーデスもプロテアーゼ阻害剤を開発中。ロパティンCEOは「ウイルスが複製工場を立ち上げる」過程を止めることを狙っていると説明した。

メルクのモルヌピラビルは、ウイルスのRNAにエラーを引き起こして増殖を防ぐ。

このモルヌピラビルとファイザーの治験薬は5日間、12時間ごとに服用しなければならない。また、ファイザーの治験薬は、エイズ感染症に使われる既存の抗ウイルス薬「リトナビル」の併用が必須。この「ブースター」によってプロテアーゼ阻害剤の効果が高まる半面、消化器系の副反応が生じ、他の薬の効き目を妨害する可能性がある。

スクーリー教授は「望ましい効果がある薬を摂取するために、いらない薬まで飲まなければならないような感じだ」と説明した。

これに対してエナンタは昨年、手持ちの抗ウイルス薬を総点検した後、新型コロナウイルスの従来株や変異株の複製に不可欠な酵素だけを標的とした新たなプロテアーゼ阻害剤を開発する道を選んだ。ルリーCEOは、リトナビルと併用せず、1日1回の服用という形で治験を行うと述べた。

パーデスのロパティンCEOも、同社の治験薬について服用を1日1回か2回にして、リトナビルの併用が必要かどうか評価していると明らかにした上で「ブースターを使わなければならないとは想定していない」と語った。

(Deena Beasley記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で

ワールド

EU、中国と希土類供給巡り協議 一般輸出許可の可能

ワールド

台風25号がフィリピン上陸、46人死亡 救助の軍用

ワールド

メキシコ大統領、米軍の国内派遣「起こらない」 麻薬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中