最新記事

宇宙

ハッブル宇宙望遠鏡打ち上げから31周年、2万光年離れた大質量星の姿をとらえる

2021年4月30日(金)17時20分
松岡由希子

太陽の100万倍も明るく、その質量は太陽質量の70倍、そして寿命はきわめて短い...... NASA, ESA, STScI

<ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げから31周年を記念し、太陽の100万倍も明るく、その質量は太陽質量の70倍のりゅうこつ座AG星の画像が公開された......>

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、1990年4月24日にスペースシャトル・ディスカバリーによって打ち上げられ、高度約340マイル(約547キロ)の軌道を周回する宇宙望遠鏡である。打ち上げから31年間で、18万1000回以上、地球を周回し、約4万8000個の天体を150万回以上にわたって観測してきた。

星雲が幅およそ5光年にわたり広がっている

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げから31周年を記念し、2万光年離れた南天の星座「りゅうこつ座(竜骨座)」の恒星「りゅうこつ座AG星」の観測画像を公開した。

りゅうこつ座AG星は、銀河系で最も光度の大きい恒星のひとつであり、その周囲にはガスや塵でできた星雲が幅およそ5光年にわたり広がっている。

りゅうこつ座AG星は「高光度青色変光星(LBV)」のひとつだ。太陽の100万倍も明るく、その質量は太陽質量の70倍である。

高光度青色変光星は不安定で、しばらく穏やかに過ごしながら、時折、質量放出を起こす。内側への重力と核融合反応による外側への放射圧がせめぎ合い、星の膨張や収縮をもたらす。放射圧が勝り、星が大きく膨張すると、星の外層の一部が吹き飛んで周囲に物質を放出し、やがて収縮して元の大きさに戻る。

これらの現象は星が崩壊しようとしている時に起きる。高光度青色変光星(LBV)の寿命はわずか数百万年と、太陽の寿命が約100億年であるのに比べて極めて短い。

放出された物質の質量は太陽重量の約10倍

りゅうこつ座AG星を取り巻く巨大な星雲は、約1万年前、その外層の一部が宇宙に吹き飛ばされて形成された。りゅうこつ座AG星から放出された物質の質量は太陽重量の約10倍に相当する。

りゅうこつ座AG星は現在静止しているが、時速67万マイル(100万キロ)の恒星風を吹き出し続けており、りゅうこつ座AG星から放出された物質をこの恒星風が外側に押し出すことで、星雲の内部に空洞が生じている。

ハッブル宇宙望遠鏡の観測画像では、窒素ガスと混じり合った水素ガスが赤く光り、塵の塊がりゅうこつ座AG星の反射光によって青く照らされている。オタマジャクシのような形状で青く映っている部分は、恒星風によって形成された、より密度の濃い塵の塊だ。

matuoka20210430bb.jpg


りゅうこつ座AG星のような大質量星は、広範囲にわたって影響をもたらすため、天文学者にとって重要である。なかでも高光度青色変光星はめったに見られず、既知のものは50個に満たない。

高光度青色変光星を専門に研究する独ルール大学ボーフム(RUB)のケルスティン・ワイス博士は「高光度青色変光星を研究するのが好きだ。その不安定さに魅了されたからだ。この星は何か奇妙なことをしている」とその魅力を語っている。

Hubble's 31st Anniversary: Giant Star on the Edge of Destruction

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中