最新記事

宇宙開発

火星開発は人類生存のためのプロジェクト

WHY MARS MATTERS

2021年3月6日(土)14時45分
クリストファー・メーソン(遺伝学者・計算生物学者)

パーシビアランスが撮影した火星の画像 NASA-REUTERS

<火星への移住は、地球上の生物が生き延びるために必要な一歩>

NASAの無人探査車「パーシビアランス」が2月18日(米東部時間)、火星への着陸を果たした。これは太陽系にまつわるさまざまな疑問の解明に向けた大きな前進だ。パーシビアランスは今後、火星の地表で生命の痕跡を探し、火星の大気から酸素を生成する実験やヘリコプターの飛行実験を行う予定だ。

火星の土壌や石を採取して保管することも重要な任務だ。予定どおりならNASAは欧州宇宙機関(ESA)と協力して2028年に火星でこれらのサンプルを回収し、2032年に地球に持ち帰る。

そこから生命体のDNAが見つかることも考えられる。だが、それは火星での生命の痕跡を意味するとは限らない。

パーシビアランスはNASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙船組立施設(SAF)内の無菌室で建造されたが、この環境でも微生物や人間のDNAが全くないわけではない。微生物が宇宙船に乗って宇宙へ行く「微生物ヒッチハイカー」の問題は1960年代から知られている。

最終的には人類が火星を訪れる

宇宙船の建造過程で、技術者や科学者の皮膚や唾液が付着することは避けられない。71年には旧ソ連の探査機が、76年にはアメリカのバイキング1号が火星に着陸しており、微生物や人間のDNAのかけらが火星に持ち込まれた可能性は高い。火星では巨大な砂嵐が何度も起きているから、それらのDNAが地表の至る所に付着していることはほぼ確実だろう。

今は遺伝学が著しく進歩しており、DNA塩基配列の解析も低コストで行える。地球上の生命体の遺伝子カタログ作成も、SAF無菌室の遺伝子マップ作成も、さらには惑星規模の遺伝子マップの作成も可能だ。16年のケイト・ルービンズ飛行士のミッションでは、宇宙でDNA分析し、地球上の新しい生命体のデータと照合できることが示された。

宇宙船上で、あるいは地球の厳しい環境下で生き延びることができるものは、火星でも生き延びられる可能性がある。そして最終的に人類は、火星に生命を(意図して)送り込むようになるだろう。

火星への有人飛行ミッションは、既に技術的には可能なのだ。私は4月に出版予定の新著の中で、数十人の宇宙飛行士を対象に行った研究結果を紹介している。その所見から、人類が火星を訪れるのは可能であり、さらにいくつかの革新と技術が実現すれば滞在することもできると考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、選挙での共和党不振「政府閉鎖が一因」

ワールド

プーチン氏、核実験再開の提案起草を指示 トランプ氏

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復

ワールド

UPS貨物機墜落事故、死者9人に 空港は一部除き再
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中