最新記事

温暖化対策

二酸化炭素を埋めろ! CO2の「直接空気回収」、温暖化対策の切り札になるか

2021年2月9日(火)10時30分

空気からの二酸化炭素回収に取り組んでいる企業としては、他にカナダのカーボン・エンジニアリングがある。同社によれば、提携企業とともに年間100万トンの二酸化炭素を回収可能なDAC施設の建設を進めているという。

二酸化炭素から燃料を製造しているカーボン・エンジニアリングによれば、年間100万トンは「4000万本の樹木による吸収量に匹敵する」という。

一方、米国で活動するグローバル・サーモスタットは、炭酸飲料の製造に二酸化炭素を利用しているコカコーラや、温室効果ガス排出量という点で世界有数の企業である石油大手エクソン・モービルといった企業との協力を進めている。

クライムワークスは、地中への埋蔵によって二酸化炭素を自然界から恒久的に切り離したのは同社が初であると主張している。

アイスランド国内のプラントの他に、同社はスイスでも、年間1000トンの二酸化炭素を空気から回収する能力を持つ施設を運用している。回収した二酸化炭素は、地元の温室に販売され、作物の生育を促すために使われる。

悩みはコストの高さ

DACテクノロジーを扱う企業はどこもコストの高さに悩んでいる。

ブルツバッハー氏は、「(二酸化炭素1トンあたり)200ドルを切るかどうかが重要なステップだ」と語る。

この金額は、カリフォルニア州が空気から回収された炭素を使って製造される低炭素輸送燃料に対して与えている補助金にほぼ等しいと同氏は言う。

もっと広範囲に、乗用車・トラック向け燃料の製造に1トンあたり200ドルのインセンティブがあれば、地中貯留も含めて、あらゆる用途に向けたDACの開発を加速させるだろう。

ブルツバッハー氏は「ネットゼロ」の排出量目標を掲げる企業・国家を称賛するが、現段階では、2030年までに年間30─50万トンの二酸化炭素回収というクライムワークスの目標を実現するには、投資額が大幅に不足しているという。

クライムワークスは昨年増資を行って約1億1000万ドルを調達したが、目標達成に必要な額には遠く及ばない、と同氏は言う。

「炭素回収・貯留に関心を注いでくれるイーロン・マスク氏のような人物の存在が重要だ。(略)そうなれば、もっとメインストリームに近づくだろう」とカーブフィックスのアラドッティルCEOは言う。

アラドッティル氏によれば、炭素を岩石に転換させる方法は、温室効果ガスを数百万年にわたって封じ込める、植林よりもはるかに恒久的なソリューションだという。植林しても、伐採や開墾、気候変動由来の干ばつや猛暑の深刻化で頻度を増している森林火災によって失われてしまう可能性があるからだ。

アラドッティル氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)による中断はあったものの、春には新たなプラントを完成し操業を始めたいと言う。冬の長いアイスランドでの「春」は、4月か5月という意味だ。

国際エネルギー機関(IEA)が昨年発表した報告書によれば、世界全体では欧州、米国、カナダの15カ所でDACプラントが稼働しており、合計で年間9000トン以上の二酸化炭素を回収したとされている。

だが、世界全体の排出量を考えれば、これは雀の涙にすぎない。米国民の気候変動原因物質の年間排出量は、1人あたり約15トン。9000トンは、米国民わずか600人分の年間排出量にしかならない。

IEAの報告書の見出しは「さらなる取組みが必要」となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税がインフレと景気減速招く可能性、難しい決断=

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中