最新記事

教育

コロナ禍における遠隔教育──新型コロナウイルスで教育のICT化は進むか

2020年7月9日(木)16時10分
坂田 紘野(ニッセイ基礎研究所)

学びの機会を確保するための方法として注目を集める遠隔教育(写真はイメージです) ake1150sb-iStock

<一斉休校で進むと思われた遠隔教育の導入だが、オンライン教材を活用した学習指導を実施した自治体は3割にも満たないことが分かった。その要因は何か>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年6月26日付)からの転載です。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2月に政府が一斉休校の判断を行ったことから、児童生徒の学ぶ環境は激変した。そのなかで、児童生徒の学びの機会を確保するための方法の一つとして遠隔教育が注目を集めている。

本稿では、(1)新型コロナウイルスの感染拡大以前の遠隔教育に関する取組みについて、(2)遠隔教育がコロナ禍でどう変化し、どのような課題が生じたかについて論じる。

遠隔教育をめぐるこれまでの取組み: コロナ前の遠隔教育実施自治体は22%にとどまる

新型コロナウイルスの感染が拡大する前の遠隔教育に期待されていた役割は対面教育を補完することにあった。我が国の学校教育は、児童生徒と教師、児童生徒同士の直接の触れ合いを前提とした対面教育をベースとしているからだ。そのような状況下において、2019年3月の文部科学省の調査では遠隔教育を実施している自治体は22%にとどまっていた[図表1]。理由としては、遠隔教育の実施の有無はあくまでも教育現場に委ねられていたことや、環境整備の遅れ、実施にあたっての規制等様々な要因が挙げられる。

Nissei_ICT1.jpg

これまでの政府の遠隔教育の施策は、対面教育の補完を実現するべく展開されてきた。例えば、2015年に高等学校における遠隔授業が解禁された際に大きく期待されていたのは、離島や遠隔地のような地域における教員の確保という課題を解決し、専門性を有する教員ができる限り対面に近い状況で授業を行うことを可能にすることであった。

2018年に文部科学省によって「遠隔教育の推進に向けた施策方針」が作成された際にも、遠隔教育が効果を発揮する前提として、教師と児童生徒、児童生徒同士の人間関係の基盤が成立していることが不可欠との考えが示されている。そのうえで、政府は2023年度までに全国の小中学生に一人一台の通信端末を配備する等の「GIGAスクール構想」を推進することで、教育現場におけるICT環境の整備および教員のICT活用指導力の向上を目指した。2019年度の補正予算ではGIGAスクール構想の実現に向けて2,318億円が計上されている。

GIGAスクール構想が目指すのは、一人一人に個別最適化され、習熟度などに応じて柔軟に学習を進められるようにすることで、各児童生徒の力を最大限引き出すことのできる教育の実現だ*1。そのために、(1)一人一台端末と大容量高速ネットワークのようなハード面の一体的な整備、(2)デジタルならではのコンテンツや学習活動といったソフト面の拡充、(3)日常的にICTを活用できる指導体制の構築*2、などの実施を図る。

――――――――――
*1 内閣府「第7回経済財政諮問会議(萩生田臨時委員提出資料)」(令和2年5月15日)
*2 文部科学省「『児童生徒1人1台コンピュータ』の実現を見据えた施策パッケージ」(令和元年12月19日)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾンなど3社の株主、米移民政策の影響開示を要請

ビジネス

仏経済、26年上半期は0.3%成長へ 消費安定=I

ビジネス

アングル:フォードのEV撤退、政策転換と需要減の二

ワールド

高市首相の解散判断「容認」、議員定数削減前でも=吉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中