最新記事

インタビュー

ロボットに「居場所」ができるのは、人々に飽きられたとき──クリエイター・吉崎航の見据える夢

2020年6月17日(水)17時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

──その「人間の友だちっぽさ」から、不要な機能やコストが削ぎ落とされて、役割としての完成形、つまり「卒業」に近づく。

吉崎:そこが人間との大きな違いですよね。人間がある業務をこなすのに「足は必要ない」と分かったとしても、足という身体の機能の稼働を省いた分、賃金が下がるなんてことは、もちろんありません。

でもロボットだったら、最初は「人間ぽいもの」が提案されても、求められる仕事をこなすために「この機能だけあればいい」とそぎ落とせるし、必要な部分だけを強化できる。最後には、こなれたところでロボットを卒業する。

「勘違い」を応援されて進んできた

吉崎:小さいころからロボットが出てくるアニメ番組が好きでした。中でも警察のロボットが活躍する『機動警察パトレイバー』の世界観が大好きでした。そのうち「パトレイバーのように、ロボットが当たり前に街を歩いているような社会に身をおきたい」と思うようになって、その思いを初めて言語化したのが中学の自由研究でした。「作りたいのはこれ」「そのための人生の道筋はこう」と文章にまとめました。

思い描いたような社会にするために、ロボットコンテストで強豪の高等専門学校を選びました。でも、これからはソフトウェアだと思って情報電子工学科を選んだんです。ただロボコンに出るのは、当時だったら主に機械科の生徒なんですけれども。

──ソフトウェアで正解でした?

吉崎:間違っていたと思います。でも、まったく後悔してないです。

当時は「ソフトさえできれば今の技術で巨大ロボットが作れる」と思ってましたが、当然、ソフトだけでロボットは動かない。先生や両親も本当は「ロボットやりたいなら機械科なんじゃない?」と思っていたかもしれません。私の「勘違い」をそのまま受け止めて応援してくれたんですね。

高専ではロボットづくりのすべてに挑戦しました。回路もメカトロニクスも企画もチーム開発も。やることは山ほどあって、1人ではやりきれないと気づきました。で、中学時代の思い込みからグルっと1周回って結局、やっぱり私はロボットの脳みそにあたるソフトウェアを専門にしよう、と決めて今に至ります。

なにかをなし遂げるには、同じ方向にまっすぐ進むほうが遠くに行ける。私は幸いにも、周りの人たちに「勘違い」を正されることなくこの道を進んできました。

──吉崎さんも、いつかロボットを卒業する日が来ますか?

吉崎:ロボットが人々から飽きられる時代になることが私の夢、と言いましたが、私自身がロボットを卒業する予定はありません。

好きなことをやっていて、かつ、それがまだ完遂できてない状態というのは、とても幸せだと思います。夢を持ち続けることが、生きている理由と同じですから。

(取材・文:錦光山雅子 撮影:西田香織 編集:川崎絵美)

Yoshizaki7.jpg

吉崎航(よしざき・わたる)
1985年生まれ。ロボット制御システム「V-Sido」の開発者で、ロボットソフトウェア開発企業「アスラテック」チーフロボットクリエイター。2009年、独立行政法人情報処理推進機構による「未踏IT人材発掘・育成事業」に、V-Sidoが採択、経産省の「スーパークリエーター」に認定。14年、首相の有識者会議「ロボット革命実現会議」委員、15年「ロボット革命イニシアティブ協議会」参与。18年、一般社団法人ガンダムGlobal Challengeのシステムディレクターに就任。

※当記事は「Torus(トーラス)by ABEJA」からの転載記事です。
torus_logo180.png

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インドネシア、追加利上げ不要 為替相場は安定=中銀

ビジネス

原油先物は上昇、米原油在庫減少やFRBの利下げ観測

ワールド

独首相、ウクライナ大統領と電話会談 平和サミット支

ビジネス

円安で基調物価上振れ続けば正常化ペース「速まる」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中