最新記事

ニューロフィードバック革命:脳を変える

プロスポーツ界も注目! 脳に電気刺激を与え能力を高めるヘッドホン型デバイス

THE HALO EFFECT

2019年3月12日(火)17時05分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

競技能力の向上だけでも十分魅力的だが、ヘイローはもっと大きな可能性を秘めている。チャオは脳卒中後のリハビリ用デバイスとして販売するため、米食品医薬品局(FDA)に認可を申請している。

別のバージョンのヘイローを開発し、脳の別の部位にパルスを送れば、記憶力や情報処理能力がアップし、仕事や学業でのパフォーマンスの向上が期待できると、チャオは言う。これまでのテストでは「加齢による認知能力の衰えを25 歳分取り戻す」効果が認められたこともあるそうだ。

新製品は発売後一定期間を経ると低価格化と小型化が進み、性能も良くなるものだ。ヘイローかその後継機も近い将来100ドル程度まで下がり、携帯電話並みに普及して、世界中のユーザーをより強く、より賢くするかもしれない。親はぜひとも子供に買い与えたいだろうし、ウォール街のトレーダーやシリコンバレーのエンジニアなど競争の激しい職種の人たちはこの手のデバイスを手放せなくなるだろう。

magSR190312-3.jpg

ヘイロー・スポーツには学習能力への効果も期待されている COURTESY HALO

スポーツでデータを検証する

かくいう私も高齢者の仲間入りをしたら、鍵を置いた場所を忘れないように、そして「今どきの若い者」に負けないようにヘイローを頼りにするに違いない。どうです、試してみますか? チャオに促されて、恐る恐るヘッドホンに手を伸ばした......。

チャオはヘイローに頼らずとも明晰な脳の持ち主だ。カリフォルニア大学バークレー校で生化学を専攻。神経科学の修士号を取得した後、スタンフォードで医学の博士号を取った。

もっとも、医者になるつもりはなかったと言う。大学院を出た後は経営コンサルティング会社マッキンゼーで2、3年働き、ビジネスを学んだ。医療関連のベンチャーを立ち上げるためだ。

最初に設立した会社はニューロペース。医療用生体工学に詳しい技術者のブレット・ウィンガイアーと組んで難治性のてんかん患者を救うデバイスを開発した。

ざっくり言えば、てんかんの発作は脳内の回路がショートすることで起きる。ニューロペースはその兆候を感知して発作を防ぐ超小型コンピューターだ。ただし価格は3万ドル前後で、頭蓋内に埋め込む手術も必要になる。2013年にFDAが認可し、今も多くの患者がその恩恵を受けているが、チャオはそれだけでは満足せず、もっと手軽に使用でき、もっと多くの人に役立つデバイスを開発しようと考えた。

チャオとマッキンゼー時代の友人で認知科学の博士号を持つアモル・サーバは製品開発のヒントを得ようと、脳科学分野の研究の進展を追っていた。2000年代初め以降に発表されたtES関連の論文は「2000本を超えるだろう」と、チャオは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中