最新記事

AI

自動運転車は「どの命を救うべきか」世界規模の思考実験によると...

The New Moral Dilemma

2018年12月10日(月)12時15分
アリストス・ジョージャウ

JUST_SUPER/ISTOCKPHOTO

<死亡事故が避けられない場面でAIは誰を犠牲にするのか。MITが230万人を対象に「トロッコ問題」を応用して調査した。倫理的な「正解」のない究極の選択が、車業界を悩ませる>

10年後のある日、あなたは人工知能(AI)による完全自動運転車に乗っている。そこへ突然、子供が車道に飛び出してきた。その子を避けるために急ハンドルを切れば、間違いなく歩道にいる複数の老人をはねてしまう。さて、あなたの車はどちらを選ぶ? 1人の幼い命か、複数の老人の命か......。

人命に関わる複雑な状況で、AIはいかに「モラルに基づく決定」をすべきか。究極の選択を迫られたとき、自動運転車にどのような判断をさせるべきなのか? その答えを探るため、マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが1年半に及ぶ大掛かりなオンライン調査を実施した。対象は世界233の国・地域の230万人。有名な倫理学の思考実験「トロッコ問題」を応用した設定が使われた。

トロッコ問題とは、「暴走トロッコが作業員5人をひき殺す事態を回避するには線路を切り換えるしかない。しかし切り換えた先の線路にも別の作業員が1人いる。あなたは線路を切り換えるか?」というもの。自動運転車版では、助けるべきは信号無視の子か信号待ちの歩行者か、若者か年配者か、ホームレスか金持ちか、が問われた。

調査の目的は「自動運転車の道徳的な判断について考えること」だと、調査を率いたMITメディア研究所のエドモンド・アワドは書く。「車がどう判断すべきかという問いの答えは、まだ出ていない」

研究チームは、ゲーム形式で自動運転車が直面しそうな状況での人々の選択を調べた。回答は4000万件近く。全体的な傾向や年齢、学歴、性別、収入、政治・宗教的立場などによる違いが分析された。

科学誌ネイチャーに発表された報告によれば、世界の人々が共通して優先させるのは3つの要素。動物より人間、少数より多数、年配者より若者を優先的に救うべきだという考えだ。

「主要な選択はおおよそ世界共通だが、集団や国によってそれなりの違いがある」と、アワドは言う。例えばアジアの多くの国を含む「東のグループ」では、中南米や南アフリカの「南のグループ」に比べて、年配者より若者を優先するという回答が少なかった。

人間が下した究極の選択を自動運転車のソフトウエアに組み込めると、研究チームは考えている。この調査が大きな関心を集めたことを受け、人間の安全に関わる問題では(技術者だけでなく)広く一般の意見を聞くべきだとも勧めている。

「このプロジェクトで私たちが試み、私自身も今後進んでほしいと思うのは、こうした問題の議論に国民が参加することだ」と、アワドは書いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、英工場で早期退職募集 世界で2万人削減の一環

ビジネス

英住宅ローン承認、5月は予想外に増加 借り換え急増

ビジネス

アングル:日本の「事故物件」、海外投資家も注目 不

ワールド

台湾ドル急落、中銀の売り介入観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    メーガン妃への「悪意ある中傷」を今すぐにやめなく…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 7
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 8
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 9
    突出した知的能力や創造性を持つ「ギフテッド」を埋…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中