最新記事

静かな戦争

蚊が殺人兵器になる──11月に承認された軍民両用テクノロジー

2017年12月20日(水)18時00分
シドニー・ペレイラ

RolfAasa-iStock.com


1226cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版12月19日発売号(2017年12月26日号)は「静かな戦争」特集。核より危険な兵器!? 生物化学兵器から電磁パルス攻撃、音響兵器、サイバーテロ、細菌感染モスキートまで、日常生活に入り込む新時代の「見えない」脅威をリポートしたこの特集から、「蚊」に関する記事を転載する>

信じ難いことだが、遠くない将来、蚊(モスキート)が戦場で最先端兵器として使われるようになるかもしれない。

米環境保護局(EPA)は11月、蚊を「兵器」として放つことを承認した。今回、根絶を狙う相手は同じ蚊の1種であるヒトスジシマカだ。

ケンタッキー州レキシントンのバイオテクノロジー企業モスキートメイトが、昆虫の共生細菌ボルバキアに感染させた雄の蚊を自然環境中に放出する。ジカ熱やデング熱、黄熱、チクングンヤ熱などのウイルスを媒介するヒトスジシマカの駆除のためだ。

この兵器化した雄の蚊(雄は人間を刺さない)が野生の雌と交配すると、染色体の異常から卵は孵化せず、子孫は残せない。「(殺虫剤など)化学物質に頼らずに蚊に対処できる」と、メリーランド大学のデービッド・オーブロッホタ教授(昆虫学)は言う。「この手法は今後かなり重要になる可能性が高く、前進は喜ばしいことだ」

承認は5年間有効で、カリフォルニアやニューヨークなど21州・地域で実行される。モスキートメイトによれば、繰り返し放出することで蚊の群れを減少させることができるが、他の昆虫は影響を受けない。同社は来年夏にも一般家庭や地方自治体向けに販売を開始する予定だ。

ボルバキアに感染したネッタイシマカを放出するプロジェクトもブラジルや中国で始まっている。広範囲で効果が見られるとしたら、この種のモスキート技術は蚊が媒介するさまざまな病気の根絶に向けた重要な一歩になるだろう。ヒトスジシマカやネッタイシマカが媒介する病気の1つであるデング熱は、世界保健機関(WHO)によれば全世界で年間9600万人が発症している。

だがこれは典型的な軍民両用テクノロジーといえる。防御目的で細菌感染モスキートを生産・使用することが可能になれば、同じ蚊を致死性ウイルスを媒介する兵器として開発し、戦争で使うのも難しい話ではないだろう。

仲間を絶滅させる兵器としての蚊は、対人兵器となり得る現実味を示唆している。

【参考記事】音の兵器は70カ国超で既に実用、ナチスの「音波砲」も現実に?

※「静かな戦争」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、6月は16%減の602億ドル 対中赤字

ワールド

米、ロシア「影の船団」への追加制裁を検討=報道

ワールド

ヒズボラ指導者、レバノン戦闘再開なら「イスラエルを

ワールド

イスラエル首相、治安トップと会議 ガザ全面制圧念頭
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    永久欠番「51」ユニフォーム姿のファンたちが...「野…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 7
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 8
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 9
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中