最新記事

宇宙開発

リッチな人々の火星移住は近い

商業飛行を手掛けるベンチャー企業がロケット実験に次々成功、地球からの脱出が現実味を帯びてきた

2016年1月26日(火)16時00分
ケビン・メイニー

未来は宇宙に 地球以外の惑星で人類が暮らすことはもはや夢物語ではない ANDREW RICH-VETTA/GETTY IMAGES

 今の世界は最悪だ。テロリズム、気候変動、ひどい政治。流れ続けるジャスティン・ビーバーの曲──。

 だからイーロン・マスクとジェフ・ベゾスの計画は喜ばしい。商業宇宙飛行のスペースX社を率いるマスクと、同じくブルーオリジン社を率いるベゾスは、人類が生き延びるために火星に移住する手段をつくると主張する。ただし火星に行けるのは超富裕層だけ。マスクが想定する飛行費用は1人50万ドルだ。

 残りの99%は、争いが絶えない惑星で苦しみ続ける。唯一の慰めは、大金持ちのジャスティン・ビーバーもきっと火星に行くということぐらい。

 まるで白人が都市の中心部から逃げ出した70年代の再来だ。富裕層は郊外の新たな住宅地に引っ越し、衰退しつつある地域に下流層が残された。富裕層と共に彼らが落としていたカネも消え去り、都市の凋落は加速した。今のシリアも似た状況だ。裕福で高い教育を受けた人々が欧米に避難し、国の復興を一層難しくしている。

 こうした力学は今から40年後の世界にも当てはまるかもしれない。歴史家は地球の衰退の原因として、昨年12月に締結された気候変動についての「パリ協定」を挙げるだろう。世界は合意を徹底できず、環境は制御不能に陥った、と。干ばつ、急減な変化、無秩序......。ウォール街の銀行家やテクノロジー業界の大物、企業のCEO、それから大物ラッパーJay-Zの取り巻き連中はとっとと逃げ去り、火星に豪邸を造る。

 むちゃくちゃな話に聞こえるだろうが、そんなことはない。昨年11月、ブルーオリジンは再利用型ロケットの発射と着陸に成功。高度100.5キロの宇宙空間へ打ち上げ、発射台から1メートルほどの所に垂直に着陸させた。SF映画のような出来栄えで、宇宙飛行にとって重要な前進だ。

 再利用可能なロケットは、火星飛行を超富裕層以外にも手が届くほど安価にするには不可欠だ。比較のために言えば、NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトル計画では、宇宙飛行士1人当たり2億㌦掛かった。しかも届くのは地球の周回軌道まで。軌道に行くのと火星に行くのでは、大西洋に爪先を入れるのと、欧州から新大陸へ航海に出るくらいの違いがある。

 しかもシャトルは再利用ロケットではなく、再利用可能な乗員室だった。これまで再利用ロケットが造られたことはなく、宇宙飛行が高価な理由もそこにある。例えば車に乗るたびに新しいエンジンを買うとしたら、経済的に大変なのと同じだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

米カンザスシティー連銀総裁「控えめな引き締め維持す

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「引き締め的な政策」望む

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中