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「治る病」への第一歩...「幹細胞移植」で多発性硬化症(MS)の炎症が改善される【最新研究】

NEW HOPE FOR MS

2025年5月16日(金)15時25分
ルカ・ペルツォッティハメッティ(ケンブリッジ大学上級研究員)、ステファノ・プルチーノ(ケンブリッジ大学再生神経免疫学教授)
幹細胞移植

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<決定的な薬物療法がない難病に有望な選択肢が見えてきた...>

世界で約300万人が苦しんでいるとされる多発性硬化症(MS)。神経系に炎症が生じて、体を動かすことや、視力、場合によっては思考力にまで支障をきたす難病だ。

MSには、症状が表れる場所を減らしたり、痛みを軽減したりする薬物療法はあるものの、多くの患者は再発と寛解を繰り返し、2次進行型MSに移行するケースもある。残念ながら、こうなると治療法はほとんどなく、最も進行した症状には承認薬もない。


ところが最近の研究で、幹細胞を使うと、MSによる神経の炎症を軽減できる可能性が示された。幹細胞とは、細胞が入れ替わる組織を保持するために、新しい細胞を作る機能を持つ細胞だ。

脳を構成する神経幹細胞なら、ほとんどのタイプの神経細胞に成長するから、MSによってダメージを受けた神経細胞を修復できるかもしれない。

私たちの研究チームが胎児の神経幹細胞を、2次進行型MSの患者15人(ほとんどは車椅子を要するなど体の不自由度が高かった)の脳室内に直接移植したところ、有望な結果が得られた。この移植の臨床試験が人間を対象に行われたのは、これが初めてだ。

拒絶反応を防ぐために、神経幹細胞は免疫系を抑制する薬と組み合わせて4回投与された。するとごく一時的な副作用(インフルエンザや呼吸系疾患のような症状)はあったものの、12カ月にわたり、重い副作用は見られなかった。

なにより重要なことに、MSの再発も、治療を受けなければ予想された運動や認知機能の著しい悪化も見られなかった。

一部被験者の脳をMRIで調べたところ、幹細胞の投与量と、脳容積の減少の間に関連性が見いだされた。これは初期のMS患者に強い薬剤が投与されたときにも認められる現象で、幹細胞が神経細胞の炎症や膨張を防いでいる可能性を示唆している。

幹細胞はどう働くのか(ケンブリッジ大学)

免疫系の異常も治せる?

MSは、神経線維を包んでいる髄鞘(ずいしょう)が免疫系の攻撃を受けて、脳や脊髄の内部の重要なコミュニケーションが阻害されるために起こる。

このとき大きな役割を果たすのが、通常なら異物を発見して退治する免疫細胞マクロファージだ。脳の場合、ミクログリアと呼ばれる細胞がこの役割を果たす。神経幹細胞は、このミクログリアの働きを正常に戻すことができる。

さらに脳を包む脳脊髄液と血液の変化を観察したところ、神経幹細胞の投与量が多いほど、細胞内のエネルギー代謝を良好に保つ役割を果たすアシルカルニチンの濃度が高くなることが分かった。

いずれも画期的な発見だが、極めて限られた数の患者(日頃から免疫反応を抑える薬も服用している)から得られたものであることを考えると、まだ慎重な姿勢が必要だ。

それでもこの研究は、脳に神経幹細胞を安全に移植できること、そして2次進行型MS患者に長期的な効果が期待できることを初めて説得力をもって示している。進行性のMSを治療する上で、この治療法が貴重な選択肢になり得る証拠と言っていいだろう。

The Conversation

Luca Peruzzotti-Jametti, Senior Research Associate and Honorary Neurology Consultant, University of Cambridge and Stefano Pluchino, Professor of Regenerative Neuroimmunology, University of Cambridge

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

【参考文献】
Leone, M.A., Gelati, M., Profico, D.C., Peruzzotti-Jametti, L., Pluchino, S., Vescovi, A.L., et al. Phase I clinical trial of intracerebroventricular transplantation of allogeneic neural stem cells in people with progressive multiple sclerosis. Cell Stem Cell, Volume 30, Issue 12, p1597-1609.e8, December 07, 2023.

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