最新記事
健康

便秘が心臓発作の「リスク要因」になっていた...「全世界で約19%が悩んでいる」【最新研究】

CONSTIPATION AND HEART ATTACKS

2025年5月8日(木)08時40分
ビンセント・ホー(西シドニー大学准教授)
トイレ

便秘と心臓発作や脳卒中 のリスクには明らかな関係が FONGBEERREDHOT/SHUTTERSTOCK

<エルビスの死因も慢性の便秘だった? 排便の問題が健康リスクを高めていることが明らかに...>

グーグルで「便秘 心臓発作」というワードで検索すると、エルビス・プレスリーの名前が出てくるウェブサイトがいくつもヒットするはずだ。

ロックンロールの王者と呼ばれたプレスリーは、1977年にこの世を去った。直接の死因は心臓発作だったが、一説には「慢性の便秘に悩んでいたプレスリーが、トイレでいきみすぎたのが発症の原因」だったともいわれる。

newsweekjp20250507084051-a2360082e69c03999754db4d4b4948ee2c8c07d4.jpg

プレスリーの死も便秘が遠因だったのかも KRAFT74/SHUTTERSTOCK,


 

プレスリーに何が起きたか実際のところは分からない。だがその死をきっかけに、専門家たちは便秘と心臓発作のリスクの間に関連があるのか、強い関心を抱くようになった。そして複数の大規模な調査により、便秘になると心臓発作を起こすリスクが高くなることが明らかになっている。

例えばオーストラリアでは、さまざまな病気で入院中の患者54万人超を対象にした研究が行われた。そして、便秘に悩んでいる患者は高血圧や心臓発作、脳卒中のリスクが便秘ではない同年代の患者より高いという結果が出た。

90万人以上の入院・通院患者を対象にしたデンマークの研究でも、便秘のある人は心臓発作と脳卒中のリスクが高いことが確認された。

ただしこれらの研究では、健康な人でも同じことが言えるかどうかまでは確認できなかった。また、高血圧治療薬(便秘の副作用がある)を投与されていたかどうかも分析において考慮されなかった。

だが最近、オーストラリアのモナシュ大学を中心に行われた国際的な研究では、一般の人々においても便秘になると心臓発作や脳卒中、心不全を発症するリスクが高くなることが確認されている。

この研究では、UKバイオバンク(イギリスの40万人以上の健康関連情報を集めたデータベース)のデータを分析。医療記録やアンケートから2万3000件を超える便秘の症例を洗い出し、便秘の原因となりやすい高血圧治療薬の影響も考慮に入れた。

その結果、便秘の人は便秘でない人に比べて2倍、心臓発作や脳卒中、心不全を起こしやすいことが分かったという。高血圧と便秘の間に強い相関があることも分かった。また、高血圧で便秘のある人は、高血圧で便秘のない人に比べて重い心疾患などを引き起こすリスクが34%も高かった。

この研究の対象になったのはヨーロッパ系の人の健康データだけだ。だが便秘と心臓発作の関係は、それ以外の人種にも当てはまりそうだ。

例えば日本で4万5000人を超える一般の人々を対象にした研究でも、2〜3日に1度しか排便のない人が循環器系疾患で死亡するリスクは、1日に少なくとも1回、排便のある人よりも高いという分析結果が出ている。

慢性の便秘に悩む人は、排便の際にいきむことが多い。そして呼吸が苦しくなるほどいきめば、血圧の上昇を招くことがある。

別の日本の研究では、被験者となった高齢者10人の血圧は排便の直前から高かった上に、排便の間ずっと上昇が続き、その後1時間、下がらなかった。

こうした血圧の変動パターンは、若者には見られないものだった。若者の血管は柔軟で、すぐ正常に戻るのに対し、高齢者は動脈硬化などにより血管が硬くなっており、そのためなかなか血圧が下がらないのだと考えられる。

腸内細菌叢も関係あり?

血圧が上がると心疾患のリスクも上がる。収縮期血圧(最大血圧)が20ミリHg高い状態が続くと、心疾患になるリスクは倍増する。排便でいきんでいるときの収縮期血圧は最大で70ミリHgも高くなるという。

一時的なものとはいえ、慢性の便秘でしょっちゅういきんでいる場合には、心臓発作のリスク上昇要因になりかねない。慢性の便秘に悩む人の中には、自律神経がうまく機能していない人もいるかもしれない。

自律神経は消化や心拍、呼吸などさまざまな体の機能をコントロールしており、それがうまく機能しなくなると、心拍の異常や過剰な闘争・逃走反応が起きる場合があり、高血圧を引き起こしかねない。

一方で、便秘に悩む人の腸内細菌のバランスの崩れに目を向けた研究もある。

腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)のバランス異常が起きると、腸内の細菌や他の物質が腸管バリアを通り抜けて血流に染み出し、免疫反応を引き起こすことがある。その結果、血管に軽い炎症が起きて硬くなり、心臓発作のリスクが高まる可能性がある。

前述のモナシュ大学の研究では、便秘と心臓病の間の遺伝的な関連も調べられた。すると、便秘と心臓病の両方に共通する遺伝的要因が見つかったという。全世界の60歳以上の人口の約19%が便秘に悩んでいるといわれる。

つまり世の中には、排便の問題が原因で心疾患のリスクが高くなっている人がかなりの割合で存在するということになる。

食物繊維の摂取を増やすなど食生活を工夫し、体をよく動かし、適度に水分を取って必要に応じて薬を飲めば、排便機能の改善が望める。それはひいては心疾患のリスクを減らすことにもつながるのだ。

The Conversation

Vincent Ho, Associate Professor and clinical academic gastroenterologist, Western Sydney University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    反ワクチン政策が人命を奪い始めた
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中