最新記事

「ワイン離れに歯止めがかからない」 フランス人が代わりに飲み始めたものとは?

日常的にワインを飲む成人はたった16%にまで低下

2021年6月19日(土)16時30分
バーツラフ・シュミル(マニトバ大学特別栄誉教授) *PRESIDENT Onlineからの転載
ワインを飲むフランスの女性たち

フランスでワインを飲むのはもう旧世代? *写真はイメージ wundervisuals - iStockphoto


フランスは「ワイン大国」というイメージがある。ところが、近年フランス人のワインの消費量は激減している。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「フランスで1人当たりのワインの消費量はこの100年ほどで3分の1以下になった」という----。

※本稿は、バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

フランス人とワインの微妙な関係

フランスとワイン----じつに絵になる関係だし、数世紀にわたり切っても切れない間柄が続いている。

ワインは、古代ローマ人がほぼ現在のフランスに相当するガリアを征服するはるか前に、古代ギリシャ人によってもたらされ、中世に広く普及し、やがて国内外を問わず優れた品質(ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ)の象徴となり、ワイン醸造用のブドウ栽培、ワインを飲む習慣、そしてワインの輸出といったものがフランスという国の個性を示す大きな特徴となってきた。

フランスはいつだってワインを大量に生産してきたし、盛大に飲んできた。ワイン産地の農場経営者や村人たちは地元産の当たり年のワインを楽しみ、町や都会の人たちは味も価格も多様なワインのなかから好みのものを選んできたのだ。

フランスで1人当たりの年間ワイン消費量の統計をとるようになったのは、1850年のことだ。当時の消費量は多く、年間平均約121リットルで、ミディアムサイズのグラス(175ミリリットル)で1日に2杯近い量だった。ところが1890年を迎えるころには、1863年に始まった害虫ブドウネアブラムシの被害が拡大し、フランス全土のブドウ収穫量がピークの1875年より70%も減ったため、フランスのブドウ園はこの害虫に耐性のある、おもにアメリカ原産の台木に接つぎ木をして、ブドウ畑を立て直さなければならなかった。

その結果、ワインの年間消費量に変動が起こりはしたものの、1887年には輸入量が国内生産量の半分近くに増えたおかげで、全体の供給量は急落せずにすんだ。

男女間と世代間でワイン消費量に隔たり

やがてブドウ畑が害虫被害から回復すると、1909年には第一次世界大戦前の1人当たり消費量のピークを迎え、年間125リットルを記録した。1924年にもこれと同じ記録を達成し、その後2年も記録更新を続け、1926年には史上最高となる1人当たり年間136リットルという記録を残したが、1950年、その量はわずかに減って約124リットルとなった。

第二次世界大戦後、フランスの生活水準は驚くほど低いままだった。1954年の国勢調査によると、屋内トイレがある家は25%にすぎず、浴槽、シャワー、セントラルヒーティングをそれぞれ備えている家は10%にすぎなかった。

ところが1960年代にそうした状況は急速に変化を遂げ、収入が増えるにつれ、食生活も大きく変わっていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの体制崩壊も視野 「脅威取り除

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイランの停戦合意を期待

ビジネス

仏ルノーCEOが退任へ、グッチ所有企業のトップに

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中