最新記事

家事

買い物帰りの妻を絶望に追いやる「最後の3m」 必要なのは「手伝い」でなく「ねぎらい」だった

2021年6月5日(土)16時00分
黒川 伊保子(人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家) *東洋経済オンラインからの転載

けれど、玄関を入って、リビングで寝そべったまま何もしない夫には絶望する。要は「重くてつらいから手伝ってほしい」のではなく「ここまで500m重い荷物を指に食い込ませながら歩いてきたことをねぎらってほしい」からだ。

手伝ってくれることよりも大事なこと

女性脳は共感とねぎらいで、ストレス信号を減衰させる。家事を手伝ってくれることもたしかに嬉しいけど、家事をねぎらってくれることのほうがずっと大事。

そう考えてみると、ヨーロッパの男性たちがするレディファーストは、よくできたマナーだ。女性が荷物を持っていたら手を差し伸べる、ドアを開けようと思っていたら開けてやる、女性が椅子に座るのを待ってから自分が座る。あれは、女性たちに「あなたを見守ってますよ、あなたがしていることに敬意を抱いてますよ」を表すアイコン(象徴)。今さら恥ずかしいと言わず、試してみてほしい。定年後の暮らしが楽になる最大のコツだ。なにせ、ここから40年あるのである。

くだんのコメンテイター氏は、「うちの妻は、30年も完璧な専業主婦として、僕を支えてくれている。いわば、プロフェッショナル。うちの妻に限って、そんなことは絶対にない」と言い切っていたが、翌日、お詫びのメールをくださった。「帰宅したら、玄関に妻が立っていて、黒川先生が正しい、と叱られました」と。

「妻をねぎらう」が夫婦を救う

あるとき、私のイタリア語の先生(イタリア人男性)に、夫源病について説明していたら、まったく通じない。イタリア語が難しいわけじゃない(最後はほとんど日本語でしゃべっていた)。イタリア人男性が、日本の夫たちが気軽にすることをしないからだった。

「2階から、妻を呼びつける?したことがない。イタリア男は誰もしない。イタリアの女性は、絶対に来ないから」

「お茶!それだけでお茶が出るの? イタリアでは、店員さんにさえ、「Per favore(お願いします)」をつけるのに。しかも、家で飲み物を淹れるのは男の役目。イタリアで、妻に「Un caffè(コーヒー)」と言ったら、「いいわね」か「要らない」のどちらかの返事が返ってくる」
「靴下を脱ぎっぱなしにする?なんだそれ。イタリアでは、大人はけっしてそんなことはしない」

「妻に小言?とんでもない。女性たちの仕事には敬意を払う。家事は簡単なことじゃないから」

......だそうです。

黒川伊保子氏の著書『不機嫌のトリセツ』イタリアでは、職業を聞かれると、堂々と「主婦(Casalinga、カーサリンガ)」と応える。家ごとに独自のパスタとソースとドルチェを継承していくマンマたちの地位は高い。「職業は?」と聞かれて、「いいえ、何も。ただの主婦です」と答えるわが国の主婦たちがなんと多いことか。自分を過小評価しすぎて、人生に意味が見いだせず、夫に絶望する。家族に主婦業に対する敬意がなく、「ねぎらう」マナーがないのが問題なのだろう。

とはいえ、恥ずかしがり屋の日本男子に、イタリア男の真似はとうてい無理。日本男子らしい、和のレディファーストを作らなければならないかもしれない。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過去最高水準に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中