最新記事

日本社会

「汚部屋そだちの東大生」女性作者の壮絶半生 母親の影響を抜け出すまでの日々

2021年4月17日(土)12時12分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

汚部屋で育った自分の半生を漫画『汚部屋そだちの東大生』に描いたハミ山クリニカさんの思いとは?

これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむが、会社員として働きながらも漫画家としても活動する女性の半生をお届けする。

「愛すべき美しいママを捨ててしまう物語」

ハミ山クリニカさんは某出版社で働く会社員だ。働きながら漫画を描き、2015年には単行本『心の穴太郎』(さくら舎)を上梓した。

2020年、彼女が新たに描いた漫画がぶんか社の自社サイト『マンガよもんが』で配信されて話題になった。そして今年の3月に単行本化された。

その漫画のタイトルは『汚部屋そだちの東大生』(ぶんか社)だ。

優しくて、過保護で、だらしがなく、そして残酷な母親と東大生の娘が生活している汚部屋が舞台だ。主人公が苦しみながらも、周りの人たちの力を借りて成長していく姿は読んでいてとても胸に迫る。

物語の冒頭に

「これは私が愛すべき美しいママを捨ててしまう物語」

と書かれているとおり、主人公が汚部屋と母親から物理的にも精神的にも離脱するまでが描かれている。

nw_20210416184730.jpg実はこの本は、ハミ山さんの半自伝的な作品である。

ハミ山さんがこれまでたどってきた道のりを聞いた。

ハミ山さんは、東京都で産まれた。

ハミ山さんの母親はハミ山さんが産まれた時点で仕事を辞め、専業主婦になった。

自宅は4部屋ある大きいマンションで、そこに母親と2人で暮らしていた。以降、ずっとその家に住み続けることになる。

ハミ山さんは幼稚園から高校までの一貫校に入学した。

「小学校の頃は父が週4回くらいは家に来ていて、部屋もきれいでした。母に対しては、『ヒステリックだなあ』と思っている程度でした」

母親は子供同士の人間関係によく口を出した。「この友達と遊んじゃダメ」という昔からある、親による友人の選別だ。

「とくに男子限定で口を出しました。顔がいい男子とは遊んでいいけど、クラスのヤンチャな男子とはダメ、みたいな感じでした。今思えば、小学生なのにクラスの男の子を結婚相手として考えているんですよね。ちょっと気持ち悪い考え方でした。

私は真に受けていたので、遊んじゃダメと言われた人とは遊びませんでした。当時は気難しいヤツと思われていたかもしれません」

学校に提出する作品、書道、作文、絵画などには母親が手を入れた。ほとんど母親の作品になってしまうこともあった。

「たとえそれで学校でほめられても、嬉しくないですよね。むしろ『バレたらどうしよう』という気持ちのほうが大きかったです。

母は、私が学校で評価されるように考えて行動したのは間違いありません。でも私を通して自分もほめられたいと思っていたんじゃないでしょうか? 当時は深く考えず、『そういうものなのかな?』と思っていました」

中学生になった頃、ハミ山さんのお父さんは徐々に家に来なくなった。

「父が来ないから、母は部屋を片付けるモチベーションを失ってしまったんだと思います。人目を気にしないところでは何もしない人でしたから......」

部屋は少しずつ汚れていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、過去最大の防衛展示会 米企業も多数参加

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中