リンカーン暗殺犯だって「舞台で歌う」?...政治的なミュージカルに響く「共鳴と不協和音」
A MIRROR OF AMERICA

再解釈されるアメリカ史
21世紀が迫る1980年代終盤。ベルリンの壁の崩壊、ソ連解体、冷戦終結が相次ぎ、中東で戦争が勃発した。この時期以降、アメリカン・ミュージカルでは歴史を批判的に振り返る作品が継続的に制作されている。
なかでも、90年にオフ・ブロードウェイで開幕した『アサシンズ(Assassins)』⑧は物議を醸した。
同作は、9人の大統領暗殺者および未遂者を主人公とする群像劇だ。リンカーンを暗殺したブースからレーガン暗殺未遂のヒンクリーまで、暗殺へと駆り立てられるさまを冷徹な視点で描く。
しかし、同作の主眼は暗殺や実行者の糾弾ではない。むしろ批判の矛先は「夢は必ずかなう」というアメリカン・ドリームの欺瞞へ向けられる。
果たされない「夢はかなう」という約束が「かなえねば」という強迫観念を生み、幻滅と欠乏感へつながる。同作は、その果ての極端な行為として大統領暗殺を位置付けている。
合衆国を支えるイデオロギーの空虚さを批判する作品だっただけに、ブロードウェイに場所を移して上演する計画は、湾岸戦争下の愛国ムードで中止となった。2001年にも、9.11テロとアフガン戦争による愛国感情の高まりで延期され、実現は04年となった。
しかしその後は再演が重ねられ、21年のオフ・ブロードウェイ再演は、同年の米連邦議会議事堂襲撃事件の記憶も新しいなかで、本作の想像/創造的な歴史再解釈の有効性を示した。





