リンカーン暗殺犯だって「舞台で歌う」?...政治的なミュージカルに響く「共鳴と不協和音」
A MIRROR OF AMERICA
ブロードウェイの舞台に立つことを夢見る若者のオーディションを描く75年初演の『コーラスライン(A Chorus Line)』では、ゲイのキャラクターが2人登場する。もっとも、2人とも合格はしない。セクシュアリティーは観客を感動させる装置として機能するが、オーディション合格という栄光からは遠ざけられている。
また、作り手がゲイ当事者である『ラ・カージュ・オ・フォール(La Cage aux Folles)』(83年初演)では、長年連れ添ったゲイ・カップルを「男性的」「女性的」に分けて描くなど、ステレオタイプにのっとった造形が見られる。それに、多くの作品で登場する性的マイノリティーはゲイに偏っており、レズビアンのキャラクターは依然として少数である。
そこへ、もう1つの転機が訪れる。「エイズ危機」だ。
80年代初頭から広がったエイズは当初「ゲイの病」とされ、同性愛嫌悪と結び付いて治療法の開発が遅れた。ミュージカル業界も大きな打撃を受け、多くの関係者が命を落とし、HIV陽性であること自体がキャリアを脅かした。
こうした状況にあらがい尊厳を守ろうと、80〜90年代にはエイズを題材にした作品が生まれていった。96年初演の『レント(RENT)』⑦はその代表だ。

ニューヨークに生きる若い芸術家たちを描く『レント』には異性愛、ゲイ、レズビアンのカップルが登場する。エイズが猛威を振るい、死と隣り合わせの状況に置かれた若者たちの刹那的な生きざまをロックやR&Bに乗せて描く同作は、鮮烈に映り、熱烈な支持を集めた。
本作にもゲイカップルを待ち受ける悲劇、レズビアンカップルを嫉妬と衝突の紋切り型で描く点など、批判すべき表象はあるものの、革新と旧態が併存することはポピュラー・エンターテインメントの特徴であり、それは『レント』への熱狂を生み出した一因でもあっただろう。





