リンカーン暗殺犯だって「舞台で歌う」?...政治的なミュージカルに響く「共鳴と不協和音」
A MIRROR OF AMERICA

ベトナム戦争は、本格的にテレビ放送された最初の戦争でもあった。凄惨な映像は若者に疑問を抱かせ、それが大規模な反戦運動につながった。67年初演の『ヘアー(Hair)』⑥には、ヒッピー・ムーブメントのただ中にあった若者の反戦精神が描き込まれている。
物語は、ヒッピー仲間と暮らす主人公クロードの元に招集通知が届くところから始まる。仲間に反対されながらも出征を決めたクロードは、長く伸ばした髪を切り、軍服に身を包む。
出征の前にドラッグで見る幻覚は、先住民虐殺やリンカーン暗殺に端を発する殺戮の歴史、アメリカという血塗られた土地に立つ若者の絶望を描き出す。
虐殺と暴力を続ける実験的な国家に生きていると認識すること。そこに『ヘアー』の反戦の核心がある。
LGBTの描き方に変化
人種差別や戦争に比べ、セクシュアリティーが大きく扱われるまでには時間を要した。性的少数者は作り手としても観客としてもミュージカル業界を支えてきたが、作品内では異性愛が定型とされ、キャラクターが性的少数者と明示されることはまれだった。
潮目が変わったのは、69年ニューヨークで起きたストーンウォールの反乱だ。警察によるLGBTQコミュニティーへの不当な捜査への抵抗から差別撤廃運動が広がるなか、ミュージカルにもその影響が広がっていく。ただし「多数派の異性愛者に受容されやすいように」という条件付きで。





