豪華キャストと美しい映像の裏で...ウェス・アンダーソン最新作が観客の心をつかめない理由
Another Anderson Movie
天国の入り口ではF・マーリー・エイブラハムやウィレム・デフォーら大物俳優が、ザ・ザを迎える。神を演じるのはビル・マーレーだ。
だが誰が重要なのか──誰でも価値があるという概念ではなく、観客を引き付け共感を呼ぶという意味で──が、まるで見えてこない。
リーズルには弟が9人いる。全員が養子で、ザ・ザの宮殿内の寄宿舎のような場所で共同生活をしている。9人には幼い頃母親を亡くしたリーズルと同じく悲しい過去があるようだが、生い立ちはおろか、名前すら明かされない。
母は父に殺されたと、リーズルはにらんでいる。一方、ザ・ザは異母兄弟ヌバル(ベネディクト・カンバーバッチ)の仕業だと言い張る。
集結したキャストは超豪華
人柄に問題のあるザ・ザは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(原題:The Royal Tenenbaums)』でジーン・ハックマンが演じた父親ロイヤルの系譜だろう。自分勝手で家族を顧みないその生き方は、映画を動かす「原罪」だった。
最後に家族と和解し許されるロイヤルは、いけ好かないが、どこか悲哀をにじませていた。
そうした複雑な味わいを、ザ・ザは発揮できずに終わる。演じたデル・トロのせいではない。アンダーソンの脚本は彼が子供たちと疎遠になった理由も、改心に至るまでの心の機微も明らかにしない。





