「動けるスーツ」を生んだ、巨匠アルマーニの「美の遺産」...自由としなやかさを纏わせた男の50年とは?
Subtle Elegance
アルマーニはビジネスセンスも卓越していた(2011年、ミラノのショーで) IPAーABACAーREUTERS
<ファション界に革命を起こした帝王は、男性に自由を、女性にしなやかな強さを与えた>
ファッション業界には誇張したスタイルや一過性の流行が付き物だが、ジョルジオ・アルマーニほどの影響力を持つデザイナーはまれだ。そのアルマーニが9月4日、ミラノで死去した。91歳だった。
アルマーニが50年前に生み出したスタイルは、今では当たり前で一見すると控えめに見える。しかし、彼は当初から、実用的で洗練されていながら、気取らず力強く繊細な、着心地の良い服を提供するという信念を持っていた。
彼のスーツは着る人への負担がなく、個性が服に埋もれず引き立つよう作られた。
1934年にイタリア北部の町ピアチェンツァで生まれたアルマーニは、もとは医師を目指していたが、ミラノの百貨店のウインドードレッサーとしてファッション界でのキャリアをスタートさせた。
61年、スタイリストで実業家のニノ・セルッティに雇われ、繊維工場で働いた。そこでの豊かな環境が、後にアルマーニのテキスタイル開発において重要な影響を与え、彼の美学を決定付けた。
「セルッティ」でメンズウエア「ヒットマン」のデザインを手掛けていたアルマーニは、伝統的なイタリアの仕立てから詰め物を取り除き、男性たちにジャケットやスーツを着たまま自由に動き、生きるスタイルを提案した。
その後50年にわたるキャリアを通じて、今や象徴的な存在となったアルマーニのジャケットは、男女を問わず着る者の体に鎧(よろい)のような保護と快適さ、安らぎを与え続けた。
85年に亡くなるまで公私共にパートナーだった建築家のセルジオ・ガレオッティに背中を押され、75年、41歳の時に自身のブランドを設立。するとすぐに、男女のウエアの常識を覆した。伝統的に紳士服に使われていた生地を女性服に採用する一方、紳士服の生地やシルエットを柔らかくした。
アルマーニの服をまとった女性は、80年代のビジネスシーンで活躍するにふさわしい、強く、自立していて、しなやかな存在感を放っていた。アルマーニを着た男性は攻撃的ではなく、魅力的で華やかだった。
ハリウッドでも存在感
80年の名作映画『アメリカン・ジゴロ』の衣装を手掛け、リチャード・ギア演じる主人公に堅苦しくない優雅さとセクシーさを与えると、ハリウッドを瞬く間に魅了した。幼少期から映画の世界に憧れていたアルマーニは、俳優の衣装を手掛けることの価値と文化的可能性を強く認識していただけでなく、それまで見過ごされていたレッドカーペットに大きな機会を見いだした。
アルマーニは程なくしてレッドカーペットの装いに大きな影響を与えるようになり、権威ある業界紙のウィメンズ・ウエア・デイリーは90年のアカデミー賞を「アルマーニ賞」と呼んだ。
2000年には、ブランドのDNAをグローバルなライフスタイル提案へと転換させた。ブランドは現在、ホテル、スパ、レストラン、化粧品、ジュエリー、家具など幅広い分野で事業を展開している。
着心地のよいジャケットからレッドカーペットで巻き起こすSNSの熱狂まで、アルマーニの足跡はファッション業界のあらゆる場所と、世界中に刻まれている。彼の影響力と遺産は、今後何十年にもわたって感じられるだろう。
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John Potvin, Professor, Art and Design History, Concordia University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.






