最新記事
映画

中国警察からの一本の電話が......特殊詐欺に1億5000万円をだまし取られた初老男性の驚愕の実話

2025年3月21日(金)20時15分
大橋 希(本誌記者)

newsweekjp20250321104907-6a70d6fd598070d2babf6b117da69436bd9fd05c.jpg

中国警察を装った詐欺師は電話でジェリーにさまざまな指示をしてきた © 2023 Forces Unseen, LLC.

―― 被害に遭ったトラウマから立ち直ることはできた?

発覚したときは本当に落ち込んだし、悲しかった。事態が明るみに出た後の5日間ほどは「これからどうやって生きていこう」と真剣に考えた。でも、起きてしまったことは仕方がない、過去のことだと、どうにか前を向こうとした。

今はトラウマを乗り越えて、シンプルで快適な生活を送っている。

台湾に帰ることにしたのは、生活を成り立たせるためだ。アメリカにいると家賃や車の維持費、保険など、とにかく金、金、金だからね。両親が家を残してくれたことには救われた。現在はその家で暮らし、それで大分節約できている。

―― 事件を映画化するまでの経緯は?

ロー監督:プロデューサーを務めているジェリーの息子ジョンとは十年来の付き合いで、ニューヨークで一緒に仕事をしてきた。ある日、ジョンが「大変なことが起きた。父親がここ数カ月、中国警察と協力して諜報活動をしているらしい」と言ってきた。

僕は信じられなかったし、ジョン自身も「本当なのか探りたいが、どうしたらいいだろう」と言うので、まず僕らはフロリダへ飛んだ。

ジェリーが一人暮らしをしているところを訪ね、カメラを据えてインタビューをした。すると、ジェリーはファンタジーのような物話を語り始めたんだ――中国警察から協力要請があり、エージェントとして諜報活動をしている。秘密裏に録音をしたり、写真を撮ったりしている。これは家族にも秘密にしてきた、と。

話を聞くうちに、彼が相当な額のお金を送金していたことも分かった。ジェリーは中国警察に送っていたつもりだったが、実際は詐欺師にだまされて、全財産を送ってしまっていたんだ。

ジョンはFBIに提出するため、メッセージアプリのやり取りや送金履歴などの証拠を集めたが、一方でジョンも僕も「これは何か作品になりそうだ」と考え、どういう話にするかを話し合った。

フィクション長編となれば1年かけて脚本の推敲をし、ハリウッドに売り込むことになる。しかし、70歳を超えた中国語を話す俳優をキャスティングするのは簡単ではない。企画としては難しいと考え、ジェリーに自身役で主役を張るのはどうかと提案した。

ジェリーはやりたいと即答したが、ただし、スパイ映画にしてくれと言ってきた。詐欺師たちの指示に従って活動していたとき、まるで007やジェイソン・ボーンになったような気分だったらしい。観客にも同じような気分、冒険を提供できたらいいのではないかと考えたようだ。

こうしてジェリーの実体験をもとにした半分ドキュメンタリー、半分スパイスリラーのような映画が出来上がった。でもその核にあるのは、アメリカンドリームを追い求めてやってきた移民の物語だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中