最新記事
映画

息子世代との恋もOK?...ハリウッド映画で「熟女×年下男性」の年の差カップルが大流行している理由

Revamping the Age-Gap Story

2025年3月7日(金)18時23分
ルーシー・ブラウン(英ウエストミンスター大学教授)
映画『ベイビーガール(Babygirl)』で女性CEOを演じるニコール・キッドマン(Nicole Kidman)

公私共に成功した女性CEOが30歳年下のインターン男性の挑発的な誘いに負け、愛欲に溺れてゆく姿を57歳のキッドマンが大胆に演じる ©2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<名作『雨に唄えば』や『めまい』の裏側では性暴力が? 年配男優に若い女優をあてがうのはもうたくさん。エンタメ界の悪しき慣行を揺さぶる映画・ドラマが続々と登場中──>

英語のスラングで「クーガー(cougar)」と呼ばれる肉食系熟女は、映画やドラマでは「年下男を狙う悪あがき女」として描かれるのがお決まりだ。だがハリウッドでは今、そんな年齢・性差別丸だしの定番パターンに揺さぶりをかける意欲作が次々に生まれている。

サイレント映画の時代から、スクリーン上では熟年男性と若い女性のカップルが理想とされてきた。現実の世界では(少なくとも欧米文化圏では)平均的なカップルの年齢差はぐっと小さく、アメリカでは2.2歳だ。


しかし映画の影響もあってか、人々の好みは現実とは異なる。昨年12月に発表されたヨーロッパの異性愛者の好みに関する調査結果を見ると、男性は一般的に年下の女性を好み、年齢が上がるにつれてどんどん若い女性を求めるようになる。

逆に女性は年齢が上がるにつれて自分と近い年齢の相手を求めるようになり、60代になると「少し年下」の男性を好む傾向がある。

ハリウッドの往年の名作には主演の男優と女優の年齢差が大きく開いた作品が多い。

『雨に唄えば(Singin' in the Rain)』(1952年)では当時19歳のデビー・レイノルズ(Debbie Reynolds)が20歳年上のジーン・ケリー(Gene Kelly)の相手役を務め、58年の『めまい(Vertigo)』ではキム・ノヴァク(Kim Novak)が25歳の若さで当時50歳のジェームズ・スチュワート(James Stewart)を幻惑する女を演じた。

Singin' in the Rain | 4K Trailer | Warner Bros. Entertainment


年代が下って72年の『ラスト・タンゴ・イン・パリ(Last Tango in Paris)』で当時48歳のマーロン・ブランド(Marlon Brando)と激しいセックスシーンを演じたマリア・シュナイダー(Maria Schneider)はまだ19歳だった。

レイノルズとシュナイダーは後に撮影現場での虐待的な力関係を告発している。レイノルズはケリーとのキスシーンで喉の奥まで舌を挿入されたことにショックを受け、シュナイダーはレイプ場面の撮影で事前に何の説明もされなかったためブランドとベルナルド・ベルトリッチ(Bernardo Bertolucci)監督に性的暴行を受けたように感じたという。

93年に全米公開された『ジュラシック・パーク(Jurassic Park)』で20歳年上のサム・ニール(Sam Neill)演じる生物学者の恋人役を演じたローラ・ダーン(Laura Dern)は、当時のハリウッドではこうしたキャスティングが当然のようにまかり通っていたと語っている。

だが、父と娘ほど年の離れたカップルを当たり前とするハリウッドの「常識」は今の時代には通用しない。最近、問題になったのは2023年の『オッペンハイマー(Oppenheimer)』だ。

主演のキリアン・マーフィー(Cillian Murphy)と彼の愛人を演じたフローレンス・ピュー(Florence Pugh)の年の差は20歳。ピューの全裸シーンがやけに長く、実際の2人の年齢差(10歳)より誇張されていたこともあって、ネット上で激しくたたかれた。

息子世代との恋もあり

年上の女性と若い男性の性的関係を扱ったハリウッド映画では、女性を「毒女」に仕立てる展開がお約束だった。

いい例が『卒業(The Graduate)』(67年)だ。ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)演じる大学出たての青年はアン・バンクロフト(Anne Bancroft)演じるロビンソン夫人の誘惑にコロリと負ける。

もっとも夫人はあくまで脇役。容貌の衰えを嘆く中年女性で、実の娘と張り合うが、ラストで男を「勝ち取る」のは娘のほうだ。

今ではこうした定番パターンは崩れつつある。40歳以上の女優を主演に据えた新作が次々に生まれているためだ。今年公開の『ベイビーガール(Babygirl)』では57歳のニコール・キッドマン(Nicole Kidman)演じる女性CEOが30歳年下のインターン男性との愛欲に溺れる。

昨年の『アイデア・オブ・ユー(The Idea of You)』では、42歳のアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)演じるシングルマザーが20代のポップスターと恋に落ちる。『卒業』と違って、この映画では主人公の恋を娘が応援してくれる。

映画『アイデア・オブ・ユー』42歳のアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)演じるシングルマザーと20代のポップスターのデート

『アイデア・オブ・ユー』でも主人公は年下男性と恋に落ちる「クーガー」 ©2022 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

昨年には『ファミリー・アフェア(Family Affair)』(主演はキッドマン)、『ロンリー・プラネット(Lonely Planet)』(主演は57歳のローラ・ダーン)とネットフリックス(Netflix)が立て続けに熟女と年下男性の恋を描くラブコメを配信。ネット上ではこれを「クーガーの年(the year of the cougar)」と揶揄する声も上がった。

そんな声に負けず、このトレンドは続きそうだ。『ブリジット・ジョーンズの日記(Bridget Jones)』シリーズ最新作『サイテー最高な私の今(Mad About the Boy)』では、50代半ばになった主演のレネー・ゼルウィガー(Renée Zellweger)が29歳のレオ・ウッドール(Leo Woodall)とデートする。

『ブリジット・ジョーンズの日記』最新作『サイテー最高な私の今』の場面写真 レネー・ゼルウィガーとレオ・ウッドール

『ブリジット・ジョーンズの日記』最新作でも主人公は年下男性と恋に落ちる「クーガー」 ©2025 UNIVERSAL PICTURES

ハリウッドの監督と脚本家に占める女性の割合は今でも23%にすぎない。製作過程での方針決定に関わる女性スタッフが増えれば、女性の視点を生かした映像作品がもっと増えるだろう。

調査によると、ハリウッド映画ではセリフのある役を演じる女優の割合は35%にすぎず、30歳を過ぎると女優に回ってくる仕事はがくんと減るという。

一方で最近ではリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)をはじめプロデュースを手がける女優が続々と現れている。こうした流れが続けば、女性たちのリアルで多彩な姿を描いた作品が次々に生まれ、古い慣行を吹き飛ばすだろう。

The Conversation

Lucy Brown, Professor of Film and Television, Head of Screen, Assistant Head of School, Westminster School of Media and Communications, University of Westminster, University of Westminster

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳

ビジネス

消費税率引き下げることは適当でない=加藤財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中