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俳優・真田広之がハリウッドで勝ち取った日本文化へのリスペクト...「それが自分の仕事だ」

Hiroyuki Sanada

2024年8月13日(火)17時27分
グレン・カール(本誌コラムニスト)

ジーン・ティアニーは1942年に『チャイナ・ガール』という映画に出ている。

えらの張った典型的な白人顔で恐れを知らず、高潔(と言うか、今から見れば傲慢)なアメリカ男が戦時下(国民党政権時代)の中国で、ミステリアスで痛々しいほど美しい悲劇の中国人ヒロインに恋をする物語なのだが、その女性を演じたのが純白人のティアニーだった。

当時のハリウッドでは、非白人の役者が悲劇のヒロインを演じることなど考えられなかったからだ。


英米の映画が社会規範の広がりを反映し始めたのは、それから25年後の67年、黒人男性と白人女性の恋を描いた映画『いつも心に太陽を』だった。


脚本を書いたジェームズ・クラベルは75年に『将軍』を書き、大ベストセラーになった。その5年後、『将軍』は日本人俳優を使ってテレビドラマ化され、驚異的な成功を収めた。


ハリウッド映画が異文化を単なる背景として描き、非白人を西洋人ヒーローの引き立て役にする時代は終わった。しかし物語は、まだ西洋人の視点で語られていた。

その流れを一気に変えたのが2022年の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だ。中国系のミシェル・ヨーが、非白人の家族に焦点を当てたハリウッド映画で堂々とヒロインを演じ、大ヒットさせた。


西洋のための物語でなく

ここで触れたいのが、真田がハリウッドや英語圏の映画に進出するきっかけとなった03年の『ラスト・サムライ』だ。トム・クルーズ主演のこの映画は、日本の文化と歴史にもきちんと配慮しており、登場する日本人はリアルで深みもあった。


ただし私は、あえてこの作品を見なかった。日本国内の権力闘争と近代世界への進出を描きつつも、結局は架空の白人(アメリカ人)がヒーローになるというストーリーに、昔ながらの白人優越意識が透けて見えたからだ。

昔の『チャイナ・ガール』がそうだったように、『ラスト・サムライ』でもヒーローはえらの張った顔の白人で、恐れを知らず高潔なアメリカ人だった。まだ、それがハリウッド映画の鉄則だった。

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