最新記事
俳優

俳優・真田広之がハリウッドで勝ち取った日本文化へのリスペクト...「それが自分の仕事だ」

Hiroyuki Sanada

2024年8月13日(火)17時27分
グレン・カール(本誌コラムニスト)
『SHOGUN 将軍』で吉井虎永を演じる真田広之

『SHOGUN 将軍』で吉井虎永を演じる真田 COURTESY OF FX NETWORKS

<ドラマ『SHOGUN 将軍』は「真田が真の世界的俳優となったことの証」──「アクション俳優」としての成功後、ロンドン演劇界への挑戦を経て、ハリウッドで担った「文化アドバイザー」としての役割。尊敬を勝ち取るための20年以上に渡る歩み──>

真田広之が主演とプロデュースを務めたドラマ『SHOGUN 将軍』(全10回、ディズニープラス配信)を見たか。今年のエミー賞で最多の25の候補にノミネートされ、真田の最高傑作と呼んでもよさそうだ。

この作品を見て、まず思い浮かべたのはジーン・ティアニー(1940年代のハリウッドで最高の美女と呼ばれた俳優)とミシェル・ヨーだった。

真田が自らの殻を打ち破り、ハリウッドの欧米人中心主義に挑み、日本文化や日本人俳優への尊敬を勝ち取るまでの20年以上にわたる遍歴が、彼女たちに重なったからだ。


20世紀末、40歳の誕生日を目前にした真田はキャリアの頂点にいるように見えた。ハンサムで武術の達人、歌手としても成功を収めていた。

しかし彼のイメージは固定化していた。いつでもどこでも「アクション俳優」。その限界に彼はいら立ち、キャリアの幅を広げるため、大きな賭けに出ることを決意した。

真田はロンドンへ飛び、ロイヤル・シェークスピア・カンパニーによる悲劇『リア王』の公演に加わり、難しい「道化」の役を引き受けた。

ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの舞台『リア王』で道化役を演じる真田広之

ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの舞台『リア王』では道化役を演じた REX/AFLO

あの作品で、道化は最も賢い人物であり、誰もあえて口にせず、あるいは目を向けようとしない不都合な真実をリア王に伝える一方、さりげなく笑いを取って舞台の緊張を和らげる役どころだ。

英国で認められた努力

シェークスピア作品の中でも最高に難しい悲劇『リア王』で道化の役を演じ切れば、自分が単なる「アクション俳優」以上の存在であり、英語の作品でも成功できることを示せる。真田はそう考えた。「アジア人が演じるには難しい役だが、やり切ったら世界が変わる」と、彼は信じた。

正直言って、個人的には物足りなさも覚えた。しかし真田の道化役は革新的で大胆かつ勇敢で、イギリス英語も完璧だった。その演技は本場イギリスでも認められ、名誉大英勲章を授与されたほどだ。

「あの役は人生最大の挑戦だった」と、真田は言う。「あの経験が、私のキャリアに新たな風を吹き込んでくれた」

そして『リア王』の公演終了から程なくして、真田はハリウッドに移った。次々と英語の役が舞い込むようになっていた。

武術を生かす役どころもあったが、ドラマチックな役、コメディー要素のある役やロマンチックな役もあった。いずれもハリウッドの一流プロダクションが手がけ、「超一流」のスターと共演する作品だった。

こうしてハリウッドでの地位を確立した真田は、アメリカの映画界における日本人やアジア人俳優への認識を変える活動にも力を入れた。そして自分が出演する全ての映画で、いわば「文化アドバイザー」の役割を担った。異質な文化へのリスペクトを勝ち取る。「それが自分の仕事」だと、真田は言った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英GDP、8─10月は0.1%減 予想外のマイナス

ビジネス

日鉄が経営計画、30年度に実力利益1兆円以上 海外

ワールド

タイ首相、トランプ氏と12日夜協議 カンボジアとの

ビジネス

EXCLUSIVE-日銀、次回会合で中立金利の推計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中