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「SDGs全てに貢献できる唯一の産業」観光が21世紀のグローバルフォースと言われる理由

2024年3月12日(火)11時30分
※JICAトピックスより転載

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小学生のころはインディ・ジョーンズになりたかったという浦野義人JICAタンザニア事務所次長。学生時代に考古学を学び、青年海外協力隊員として、ボツワナにて世界遺産の発掘調査、遺跡保護活動を行った。2009年からJICAに所属し世界のあらゆる観光案件に携わり、2011年からJICA南アフリカ事務所を拠点にアフリカ地域の観光分野支援に従事。2016年3月から産業開発・公共政策部にてJICAの観光開発協力を総括。2022年4月から現職

世良 聞くだけでワクワクするお話ですね。日本でもマチュピチュのようにオーバーツーリズムが問題になることはないのですか。

西山 例えば京都市では、インバウンド(訪日外国人客)が増えて市民がバスに乗れないという問題が起きていますね。岐阜県の白川郷では以前、観光客が100万人を超えたころ、大渋滞のせいで救急車などの緊急車両が通れず、住民の生命に関わる危機だということで住民が行政、専門家と解決策を検討し、10年ほどかけて課題を克服したという例もあります。

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世界遺産登録5年後の2000年頃の混雑する白川郷(西山徳明さん提供)

浦野 これから観光開発が伸びていく中で、オーバーツーリズムになる地域は増えていきます。我々がペルーで行っている支援が日本のオーバーツーリズム解決のヒントになる可能性もあると思います。観光の分野は特に、日本も途上国にとっても共通の課題が多いのです。先進国である日本が一方的に知識や経験を教えるのではなく、お互いに学び合いながら課題に取り組んでいくことが非常に大切だと考えています。

一方「非常に脆弱な産業」の一面も

世良 コロナ禍もありましたが、一方で観光業に依存するのは、リスクが高いのではありませんか。

西山 重要なのは「観光に頼り過ぎないこと」です。旅行者のうちビジネス関係は2割、残り8割は普通の観光です。ですから、コロナのようなことが起きると一気に来なくなりますし、非常に脆弱な産業でもあります。だから頼りすぎないことが大事です。途上国では自分たちが生きていくために生業としてきたことをやりつつ、観光にも手を出します。だから、いざという時に備える力を持っています。この点において、我々は途上国に学ぶことも多いのではと思います。

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これからは観光が広がり、さまざまな産業に影響力を持つようになり、あらゆる人が関わらざるを得なくなるのではと話す西山徳明さん。北海道大学観光学高等研究センター教授。観光開発国際協力専門家。専門は建築・都市計画学、ツーリズム、文化遺産マネジメント。フィジー、ヨルダン、ペルーなどで国際協力を展開中

浦野 備えが非常に重要です。我々はUNWTO(国連世界観光機関)とともに将来的に何か起きたとき、どう動くかを事前に決めておく「危機管理計画」を作り始めています。

世良 具体的にどんな対策ができますか。

浦野 一番分かりやすいのは風評被害対策です。例えば、アフリカではどこかの地域でエボラ出血熱が発生すると、アフリカ大陸全体の観光客数が減るんです。でも、アフリカ大陸のどこで発生したのか、きちんとした状況を伝えることによって、観光産業における悪影響が抑えられます。どうやって正確な情報を発信していくか、どう発信するのが効率的なのかを事前に準備しておくと、何か問題が起きたときに初動が早くなります。

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